SS 2

□飛花落葉
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意識して探してみると、池袋にも案外公園ってあるものなんだなと思う。
「ここでします?」
目線をやる俺の隣で、トムさんは言った。
「そういやお前、前に緑の浴衣、買ってたべ?せっかくだから、着ろよ。勿体ねぇじゃん。男の浴衣は女に比べて簡単だしよ」
そういえば、前に夏祭りがあるとかで、浴衣を買った。深緑……むしろ抹茶色の浴衣があったはずだ。
「え?俺一人だけ、浴衣を着るんすか?」
今回は別に祭りがある訳じゃ無い。ただ二人で花火をするだけだというのに、何故わざわざ浴衣を??
戸惑う俺の反応なんか見越したかのように、トムさんは言った。
「別に浴衣なんて、昔の人のパジャマだべ?風呂上がりに着るもんだしよ」
「……そうなんすか?昔の人って、あんなもの着て寝てたんすか」
「元々は風呂に入っている時に着てたんだったか………?そうそう、日本って案外最近まで混浴だったらしいからな」
あんなもん着てたら体も洗えないと思うんだが………まあ、昔の人にも色々都合があったって事だろうか。
「だから、着物と違って下着は着けないんだべ」
にやりとトムさんが笑った。
「そういや、パンツも履かないんでしたっけ?」
なんか、以前もこんな話をした………ような気がする。
それにしても、ノーパンで花火してしゃがんだら……なんか色々なモノがもろ出しにならないんだろうか。
「女は、な。男の場合は一応、褌だよ」
「フンドシっすか……」
浴衣を買ったのすら案外最近なのに、褌なんかある訳がない。そもそも売っているのも見たことがない。
「まあそこはしゃーないから、パンツ履いとけよ」
しゃーないって……パンツ履くのは妥協案なんすか……?
「でも、静雄が着てくれるんなら、俺も着ようかね」
んー!と伸びをするように体をのばしながら、トムさんが言った。トムさんの浴衣姿?!俺が浴衣を着るかどうかはさておき、トムさんの浴衣姿は格好良い。シックな色の浴衣に黒い帯で、ドレッドなのに物凄く似合う。俺がなんか隣でひょろひょろしているのがおかしくて仕方ないくらい。重心の問題か?それとも貫禄とか年齢によるものなんだろうか。
「それは、見たいっす」
思わず食いつく。むしろ毎日だって見たい。
「じゃあ、浴衣持って俺ん家集合な」
「はい」
俺は急いで家に帰って、浴衣を出した。
トムさんが浴衣はクリーニングに出せ!というので出して、そのままになっている。細長い袋と帯と、そして下駄を探し出すと、トムさんちに向かった。

「すんません、遅くなりました」
トムさんちに着くと、トムさんはもうすでに浴衣姿になっていた。髪の毛も上で束ねていて、ちょっとすっきりしている。やっぱり、格好良い。ほれぼれする。
「………着るの、早いっすね」
「別にこんなの、難しくも何ともねーしよ」
帯をぽん!と叩いて、トムさんが笑う。
「ほら、静雄も着るべ」
言われて、さっさとパン1になる。そういや前も、恥じらいがないだの、この体勢がエロいだの、そんな話になっていた気がする。
「浴衣に関しては、もうちょっと肉があった方がさまになるんだけどな」
俺に抱きつくような雰囲気で帯を回しながら、トムさんが言った。そうか……肉付きの問題だったのか。
「太った方がいいんすか?」
「でも丸々と太ってコロコロしてる静雄はちょっと……アレだな」
「アレってどれっすか」
「………やっぱりお前は細マッチョでいいよ」
細いはともかく、マッチョ?
「俺、マッチョすかね?」
腕を曲げてみる。力こぶはあっても、そんなにムキムキしているとは思えない。
「………どうだろうな?お前、すっげー力持ちの割には筋肉がついてねえ方だとは思うけど。ああ、でもこの細い腰まわりは、超好み」
ぎゅっと帯を締めたあと、トムさんはその延長のように尻をむぎゅっと揉んだ。
「うひゃあぁ!!」
「何その色気無え声」
悪戯成功!というように、トムさんは笑っている。
「揉むなら揉むって言ってくださいよ……!!!」
「宣言してから揉んだって何もおもしろくねえじゃん。じゃあ何?今からお前にハメる!って言ったらハメていいの?」
……ハメるって、そ、それって、トムさんのアレを俺のコレ………
「冗〜〜〜談。そんな事したら、花火できなくなるだろ」
まるでからかっているような口振りだ。
「トムさんは意地悪っす」
「………好きな子を苛めるのは、いつの時代の男にとっても不変的な行動だろうよ」
しれっと言われて、驚く。
「え?えと、その」
「静雄は動揺しすぎ。まあ、そこも可愛いんだけどな」
畳み掛けるように言わないでください、俺の頭では処理できません。
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