□虹の彼方□
□照れ屋な彼
1ページ/1ページ
私にはしっかり者で頼りになる幼馴染がいる。
家が隣同士で、小さいころからずっと一緒に育ってきた幼馴染。
「梓―!教科書忘れちゃったから貸して?」
高校生になった今でも、私は彼に頼りっぱなしだ。
「………」
「あーずーさー」
いつまでも返事をしない彼に、私はもう一度大きな声で呼びかけた。
すると彼は、大きなため息をついて私に近づいてきた。
「…お前なあ」
「どしたの、そんな怖い顔して?」
満面の笑みで答える私に、彼は再びため息をつきながらこう叫んだ。
「名前で呼ぶなって何度も言ってんだろ!」
「いいじゃん、素敵な名前なんだし♪」
「よくねーよ!こんな女みたいな名前…」
そして彼はいつものようにぶつくさと文句を言い出してしまった。
昔から名前で呼ばれることを嫌がっていたけれど、高校生になってからはそれをさらに嫌がるようになった。
「私は好きだけどなぁ…。」
「はぁ…?」
「梓の名前!それに、名前って親がくれる最初の愛情だよ?もっと大切にしなきゃ。」
「それはそうかもしれねぇけど…」
そう言って彼は少し考え込んでしまった。
口ではなんだかんだ言ってても、本当はとても優しい彼。
私の言ったことを紳士に受け止めてくれてるんだよね?
そんな梓の顔を覗き込みながら、私は彼に質問した。
「梓はさ…私が梓の名前を呼ぶのがそんなに嫌?」
「なっ…んなこと……」
顔を赤くしてそう言う梓が可愛くて、ついつい私の口元は緩んでしまう。
「…なんだよ。」
「なんでもなーい。」
幼馴染という私たちの関係が変わるのは、きっとそう遠くはない未来のこと。
―照れ屋な彼―
(俺のこと名前で呼んでいいのは、お前だけだからな)
2008.2.23