イベント

□雪のツバサ
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師走。師匠も走ると書いて師走。その名の通り、真選組もやはりとても忙しかった。
特に今日は、12月24日。
天人たちが飛来し幕府がそれを迎合して以降、急激に広まったイベントの数々でも最たるものであるクリスマス。その前日である今日は、クリスマス・イヴと呼ばれ、町は多くの人で賑わう。そうなると必然的に何かと騒ぎも増え、そのため真選組も毎年大忙しの日に
なるのだ。
そう。だから恋人たちの聖夜と呼ばれるこの日に、その真選組の頭脳とまで呼ばれる鬼副長・土方十四郎が仕事を休むはずがなかった。
しかし……。

「はぁ?!もう上がっていい?何言ってんだ、近藤さん。本番はこれからだぜ?」

市中の巡回を一旦終了し食事を取るため屯所に帰営した土方は近藤に突然呼び止められ、今日はもう仕事を上がるようにと告げられて、素っ頓狂な声を出した。
当然だ。イヴのトラブルは、夜が最も多い。ということは、これからが最も警戒をしなければならない時間帯なのだ。
そう答える土方に、近藤はニコニコといつものお日様のような笑顔を浮かべて、肩に手を置いた。

「大丈夫だ。巡回ぐらい俺たちだけで出来る。お前はいつでも働きすぎだ。今日ぐらい恋人を優先してやれ」

そう言われて、恋人である万事屋の顔が脳裏に浮かんだ。
先だって、少し遠慮がちに今日の予定を聞いてきた彼に、にべもなく仕事だと告げた。
すると「そうだよね」と嘆息を落としながら、珍しく彼は大人しく退いたのだ。その姿はとても哀愁が漂っていたように思う。
だからと言って忙しい中、自分だけが抜けるなんて、他の隊士の手前出来るはずもない。
だが、近藤はゆっくりと首を振った。

「他の隊士たちも、皆賛成してくれてんだ。ま、俺達からのクリスマスプレゼントということで、受け取ってくれ」

そこまで言われたら、固辞をするわけにもいかない。
土方は頷き、まるで大輪の花のような微笑を向け、礼を述べた。





電話を入れると銀時はとても嬉しそうな声で、すぐに出ると言って土方の返事を聞く前に切られてしまった。
土方は呆然と受話器を見てから、くすりと笑みを漏らす。
自分と会える事をそこまで喜んでくれる彼に、胸の奥からぽかぽかと暖かいモノが込み上げてきた。
自分も急いで着替えて出よう。土方は私室に戻り、いつもの黒の単に着替えた。




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