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□ずっと傍に
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「アンタ、またいるのかィ」

六本木ヒルズ内のマンションの一角。そこでそんな呆れた声が響き渡った。
アンタ、と名指しされた男は、それを全く意に介す様子はない。

「十四郎の世話は俺が全部見るって言ったろ」
「あんたに任せんのが不安だから、こうして来てるんでィ」

二人の間には、目には見えない火花が散っている。それに割って入ったのは、その話題の中心人物だった。

「総悟。俺は大丈夫だから・・・。それにあれは金時のせいじゃないって何度も・・・」

やんわりとそう諭す土方は沖田にきっと睨みつけられ、一瞬たじろいで口を噤む。

「聞きやしたがね。納得はしやせん。直接手を出したのは別の野郎かもしれやせんが、そいつが土方さんに
 因縁つけた原因は、詰まる所こいつじゃねぇですかィ」

確かにその通りなので、言われた金時はウッとつまり反論する事も出来なかった。
以前、土方が発作を起こして倒れて原因のことについて、沖田は大層立腹しているのだ。
そのおかげで土方は、心臓移植をしなければ助からないところまで追い詰められて、死線を彷徨った経緯が
ある。たまたまドナーが現れ、助かったからよかったものの、そうでなければ・・・、とゾッとする思いが未
だ沖田の中で燻っていた。
沖田はずっと、発作を起こした時に連絡をしてきた金時に非があると思い込んでいた。それを聞いた土方は
事の顛末を言って聞かせたのだが、沖田は納得するつもりはないらしい。流石に強姦されかかったとは口が
裂けても言えなかったので(そんなことをすれば、火に油を注ぐようなものだ)口論に乗じて興奮してしま
ったのだと説明したのだが、ならその口論の原因は何だと聞かれて、咄嗟に言い訳が出てこなかった。第一
たったそれだけのことで、心臓の調子が元々不安定であったとしてもあそこまでの発作を起こすとも考えら
れない。聡い沖田は、大体のことは察したのだろう。結局口論の原因は金時なのだからと、土方の努力は水
泡に帰したのだ。
しかし、沖田だって本当は分かっている。金時は悪くないのだということも、土方が本当に誰を必要として
いるかということも、今とても幸せそうだということも・・・。
ただそれを認めたくないだけだ。土方は小さなころから自分にとっては、とても大切な人だった。それをい
きなり現れた男に、自分が不在中に横から掻っ攫われて、面白くないだけなのだ。
だからいつだって、二人の中を邪魔してやる。
だが、それでもやはり沖田は土方のことが好きなのだ。彼の哀しそうな顔を見るのは本意ではない。
ハァッと大きく嘆息を落とした。

「俺は明日も仕事なんで帰りまさァ。なんか持ってくもん、ありやすかィ?」

渋々と言った態でそう告げると、土方はすかさず置いてあった書類を手渡す。沖田はそれを受け取って、視
線を金時に向けた。

「いいですかィ?二度目はありやせんぜ、旦那」
「わかってるよ」

苦手が小舅が帰るのだ。金時は逆らわずにそう答えた。





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