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□カウンセリングに行こう
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大江戸総合病院。心療内科。
土方は十四郎はそこで併設されているカウンセリングルームの担当のカウンセラーという職に就いている。
大学は心理学を専攻し、院に進み、臨床心理士の資格を取った。
まだ年は若いがよく相談に乗ってくれると、評判は上々だ。
そして今日もまた、迷える子羊が一匹・・・。





「しんどいんです・・・」
「そうですか」
「外に出たくないんです」
「ここには来てますよね?」
「あなたに会いに・・・」

カウンセリングルームに備え付けられているソファーセットに向かい合って座っていると、患者がそう言ってガシッと手を握ってきた。
土方のこめかみがぴくぴくと引き攣っているのを、患者は気にも留めず更に手の力を込めた。

「デートしてくれたら、治ると思います!!」
「ナンパしに来てんじゃねェェェェ!!!」

普段は死んだ魚のような眼をしているくせに、この時ばかりきらきらと眼を輝かせている患者・坂田銀時に
土方は雄叫びを上げて、見事にアッパーカットを炸裂させる。

「ひどいよ、多串くん・・・。銀さん、カウンセリングに来てんのに・・・」
「やかましわァァァ!!これのどこがカウンセリングだ?!第一俺ぁ、土方だ!!」

よよよ・・・、と顎を押さえ泣き崩れる銀時を前に、土方は肩をそびやかし、怒鳴りつけた。
しかし、銀時は全く答えた様子もない。

「だって、銀さん。お前のこと考えると、夜も寝れねェんだよ。仕事しててもお前のことばっかり思い浮かんで、手につかねェ」
「仕事なんざしてねぇだろ!!」
「パチンコだって、稼げるんですぅ!!」

あまりにも不毛な会話だ・・・。土方はげっそりと肩を落とす。
こんな会話をするために、六年間も大学に通い資格を取ったわけではないのだ。
とっとと追い出してしまおう。

「一つ言っておきますけどね。俺は男です」
「見れば分かるよ」
「そうですか。視力は正常のようですね。では、お帰り下さい」
「えぇ?!視力検査に来たんじゃないって!!銀さんの病気、治してよ!!」
「どこにも悪いところはありません」
「そんなことないよ!!俺の病気は恋の病だ!!!」

銀時がそう言い切った瞬間、部屋の中の温度が確実に五度は下がった。
それに気付かない銀時は、目の前でにっこりと花が綻ぶように微笑を浮かべる土方に釣られ、笑みを浮かべる。
その銀時の鳩尾に、綺麗に土方の蹴りが入った。
ぐえっ、とまるで蛙が潰れたような音がして、銀時はそのまま昏倒する。

「寝言は寝てから言えってんだ」

土方はそう吐き捨てるように告げ、まるで猫の子のように衿を引っ掴んで、銀時をカウンセリングルームから放り出した。
邪魔者を追い出し、ほぉっ吐息を吐く。
銀時のカルテに、『異常なし』と書き込み、早々に次の患者に移る為カルテを見、その場でそれを破り捨てようかと思った。

 いやいや。それはだめだろう・・・

一応理性は働いたようで、カルテは既の所で廃棄を免れた。
嫌々そうに、本当に仕方無しにその名を呼ぶ。
これは仕事なのだから相手を選ぶことなどできないのだ、と自分に言い聞かせて。




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