イベント

□I
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銀八から言い放たれた言葉が、土方を深く抉る。

「なに?オメェ。世の中の不幸、全部自分一人が背負っちゃってるとか思ってるわけ?自惚れんじゃねぇよ。まだ何も知らないガキの癖に」

自惚れているわけなどなかった。自分にはこうやって生きていくしかない。
本当に土方は子供だ。自分を護る術など、何一つ持ち合わせてはいない。
自分の快楽しか追い求めない父にとって、土方はただ金をもたらす為だけの存在だ。
自分の幸せだけを願う母に至っては、存在さえも否定された。
そんな自分に、どうやってこの現状を打開しろというのだろうか?
自分は彼のように強く、自由ではない。
大人たちの言うがままに生きていくしか、道はなかったのだ。
銀八が去って行ってから、また組の連中に抱かれた。その日はもう客は取れないだろうと・・・。
ちゃんと稼げなかった罰だといい、三人がかりで犯された。
本当は、他人に体を触られるのは死ぬほどいやなのに、それでも慣らされてしまった躯は心を置いて、暴走を続ける。
聞くだけで虫唾が走るような嬌声をばら撒き、男達の目を楽しませるようにその腰を振った。
男たちはそんな土方を、淫売だと厭らしげな笑みを浮かべて責め囃し立てる。
違うのに・・・。本当は触られたくもないのに、誰も土方の心の叫びは聞いてくれない。
どうすれば、この無間地獄のような日々から抜け出せるのだろうか。
浮かされる意識の中で、そんな事ばかり考える。
そして、ふと思い浮かんだのだ。とても簡単な方法を・・・。
何故、今まで思いつかなかったのだろう?
いなくなればいいのだ・・・。こんな冷たくて、残酷な世界から・・・。
銀八に突き放されてから、土方は立つ場所を変えた。
流石に、自分の事を嫌っていると分かっている者と顔を合わせるのは辛い。
きっと彼は、土方の事を軽蔑しているに違いないのだ。躯を使って金を稼ぐ。それがどれ程卑下た行為かぐらい、土方にだって自覚はあった。
そんな事をしなければ稼げない土方の事など、彼が歯牙に掛けるわけがない。
そして、一週間後。土方は売り上げを上納することなく、姿を消した。
当然、それに気付いた組の男達は躍起になって土方の姿を探したが、土方は別に隠れることもしなかった。
彼らから、逃げ切れるとは思っていない。元々逃げるつもりもなかった。
もう決着をつけて欲しかったのだ。
逃げ出した自分を、彼らはきっと許さないだろう。それならばいっそうの事、出来るだけ残酷に殺して欲しかった。
その屍を見たのなら、父は少しは胸を痛めてくれるだろうか?

 ねぇな・・・。そんなこと

きっといい金ズルを無くしたと、土方の事を口汚く罵ることだろう。
もうそんなことはどうでもいい。自分がいなくなった後の世界など、興味がなかった。
案の定すぐに見つかった土方は、散々男達に殴られ蹴られ、その欲望を叩きつけられる。いつ終わるとも分からない、肉の饗宴。
饐えた臭いが鼻について吐き気がしたが、胃を思いっきり蹴られ嘔吐を繰り返した後では、吐く物でさえ何も残っていない。
ドラッグを嗅がされ、もう何も分からなくて、ただ腰を揺さぶられる。
早くこのまま殺してくれればいいのに、とぼんやりとそんなことを考えた。
どれほどの時間を過ごしただろうか?
もう躯の感覚は全くなかった。どこからか聞こえてくる声が、自分が上げる嬌声だということさえ分からない。
その中で、誰かが自分の名を呼んだ。その声に、土方はピクリと反応しようとしたが躯はまったく動いてはくれなかった。
それは、自分が恋憧れていたものだ。
そこから先は、何か暖かいものに包まれたことしか記憶にない。
眩しい光に目を開けると、そこには見事なまでの銀糸が広がっていた。





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