イベント

□残り一分の抱擁
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5月5日
この日屯所では、通常よりも倍以上の人数が一堂に会す。
受け入れる側は、朝から大童だ。
今年も例外なくそれは敢行されるようで、あらかじめ買出しなど数日も前からその準備が始まる。
朝から夜の乱痴気騒ぎのために、厨房はさながら戦闘状態だ。
大広間などもこの日ばかりは局長・近藤を筆頭に、掃除から始まり宴会の準備に取り掛かっていた。
その騒ぎに一人、土方だけは憂鬱に溜息を落としている。
何かを手伝おうとすると、それはすべて丁重に断れて、朝からすることがない。
毎年思うのだ。これはやりすぎではないかと・・・。
しかし、結局は理由をつけて集り、騒ぎがしたいだけなのだろう。
それがわかっているだけに、何も言えないのである。
何しろ局長である彼が、率先してそれを行っている。
そう、局長だ。
その彼は、昼過ぎに大勢のミニ嵐を引き連れやってきた。

「十四郎!息災であったか?!」

出迎える土方を、満面の笑顔でひしっと抱きしめる男―――芹沢朱鷺。
その後ろには、副長である新見、山南、参謀・伊東、副長助勤の斉藤、永倉、原田、藤堂、井上が雁首揃えて立っている。
それを見て、土方はいつも眩暈を覚えるのだ。
幹部全員が持ち場を離れていいのか?!
しかし、此処で置いてけぼりを食らおうものなら、きっと京の屯所は一瞬のうちに壊滅状態に陥ってしまうのだろう。
理解できてしまう自分がイヤだ。
そして、それと時を同じくして、男が二人連れ立ってやってくる。

「十四郎くん。これを君に・・・」
「なに言ってんだい!大鳥さん!!トシさん、おいらのを先に貰っておくれでないかい」

刑事局長である大鳥は真っ赤なバラを、将軍直属SP隊隊長の伊庭は白いユリを、それこそ両手に抱えきれないほど抱え、似非な笑顔を浮かべている。
この二人は果たして、自分の性別がわかっているのか?
それに今日は絶対に非番ではないはずだ。と言うことはサボりか?
もし上司にしたくない男ランキングがあれば、この二人は間違いなくダントツでワンツーフィニッシュを決めるに違いない。
土方は思わずこめかみを押さえた。
そして、まだ現れる。

「「「「「副長〜〜〜!!!」」」」」

相馬、野村、田村、市村、玉置がそれこそ尾っぽを千切れんばかりに振りながら、駆け寄ってきた。
その後ろを島田の巨躯と榎本が揃って、ゆっくりと歩んでくる。

「「「「「お誕生日、おめでとう!!!」」」」」

皆の声が、屯所中に響き渡った。





そう、この日は真選組副長・土方十四郎の誕生日であった。




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