イベント
□鐘の音が鳴り終わるまで
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「土方さ〜ん。いいんですかぃ?」
暮れも暮れ。大晦日の夜。
真選組は二日参りに馳せ参じた民衆でごった返す神社の警備に駆り出されていた。
当然、土方は総責任者として現場に出ている。
その土方に沖田が話し掛けた。
土方は沖田が言わんとすることがわからず、首を傾げている。
「旦那ですよ。アンタ、クリスマスも仕事でドタキャンしたんじゃねぇんですかぃ?」
そこまで言われてようやく得心いったのか、あぁ、と土方は気のない返事をした。
「いいんだよ。あいつとは別れた」
「・・・、別れたぁ・・・?!」
あまりにもあっさりそう言う土方に沖田のほうが吃驚して、素っ頓狂な声を上げる。
それにじろりと睨みつけた
「いつものこったろ。いいから仕事しろ」
それだけ言って、自分はさっさと持ち場に戻ってしまった。
残された沖田は唖然とする。
確かに土方は恋人ができても、長続きはしない。
彼が仕事ばかりを優先するから、相手が付いてこれないのだ。
それでも、今回は相手を知っているだけに、大丈夫だろうと思っていたのにこんなにあっさり別れるとは・・・。
沖田は大きな溜息を吐いた。
彼はどこか情緒が欠けている。
それには事情もあり、それを知っている沖田はいつも心配しているのだが、今回もだめだったらしい。
「旦那ぁ、しっかりしてくだせぃよ・・・」
沖田の呟きは周りの喧騒に消し去られ、聞く者は誰一人いなかった。
・・・ハズだった。
「そりゃぁ、悪かったね」
背後から急に声を掛けられて、沖田は慌てて振り返る。
沖田でさえ、その気配に気付く事はできなかった。
そこには、銀色の髪のやる気のない死んだ魚のような眼をした男が立っている。
「旦那・・・」
「ちょっとご相談があるんだけど・・・?」
睨みつけてくる沖田に、にやりと笑うその男は、今まさに考えていた男であった。