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□天照は哂う
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土方は真選組の頭脳と呼ばれ、とても器用に物事をこなしていくのは世間一般では有名な話である。
だが、それに比例するように手先がもう絶望的に不器用であるという事は真選組内だけでの有名な話であった。
その不器用な土方が真剣な顔で厨房の一角を陣取っている。
真っ白なエプロンも初々しくも眩しいのだが、厨房担当の隊士たちはそれを見て顔を引き攣らせた。
奇しくもその日はクリスマス・イヴ。どうにか午前中の非番をもぎ取り、彼は決死の覚悟でここにいた。

「おい、山崎。本気か?」

土方の指南役についてきた山崎に隊士が囁きかける。
それに山崎は固い顔をして頷いた。

「どうしても自分でやるって言って聞かないんだ」

溜息交じりに言う山崎はもう全てを達観していた。
きっと午前中では時間が足りないはずだ。山崎は勢い込んでいる土方を見詰め、もう1度大きな溜息を付いた。
他の隊士もそれに釣られて土方を見る。やる気は満々なのだ。ただ手先が付いていかないだけで・・・。
先日もここで土方が魚を捌こうとして、包丁で手を切り縫合までするという事件が起きた。
あの後、現場にいた隊士たちは沖田にそれはもうこれでもか、というほどネチネチと虐め続けられたのは
記憶に新しい。

「頑張れよ」

皆、哀れみの目で山崎を見た。
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