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□ひとりぼっちのクリスマス・イヴ/土方side
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初めて彼を見たとき。
眩いライトが乱舞する舞台の上からでもはっきり見て取れた輝くばかりの黄金それは、夜の闇を照らす太陽の光かと思った。
闇色しか纏わない自分だから、それに憧れたのかもしれない。
しかし彼は単なる客の一人だ。重なり合うことはないと思っていた。
だが思わぬところで彼と出会ったのだ。
声を掛けていたのは向こうだった。よもや同じ大学の学生だとは思いもしてなくて本当に吃驚した。
彼は坂田金時と名乗り、思わず見惚れるような笑顔を浮かべた。
こんなに鮮やかで綺麗な存在は見たことがない。
その瞬間に彼は土方の世界に住み着いてしまったのだ。
金時はバイトでホストをしているらしい。そのせいか、とても聞き上手で話し上手だ。どちらかというと口下手な土方でも彼と話すのは楽しかった。
そのまま優しい彼の眼差しを独り占めしたいと思い始めたのは、当然の成り行きだったのかもしれない。
先に好きだと告げたのは土方だった。
どうしても溢れ出す想いを止めることが出来なくて、彼を見る度に辛くて、でも見ていないと寂しくて、自分で自分がどうすればいいのか分からなくなったのだ。
彼はとてもモテる。鮮やかな黄金の髪、優しいヘイゼルの瞳、その容貌は完璧だと言っても誰もが納得するだろう。頭は小さく長身のその体躯は見事なまでの八頭身だ。
その気になればどんな美女であっても選り取り見取りであろう彼が、こんな平凡そのもの自分を相手にしてくれるなんて思いもしてなかったが、ただ想いだけでも告げてすっきりとさせて欲しかった。
だから彼がその申し出を受けてくれたときには本当に信じられなくて、思わず何度も確認してしまったほどだ。
まるで夢のようだった。
誰からも愛される金時が自分だけのものになったのだ。だから体を求められたときも本当は怖くて恐ろしかったが、それでも彼にすべてを委ねた。そうすることで完全な恋人同士になれると信じていたのかもしれない。
なのに、不安は募る一方だった。
金時は誰にでも優しい。フェミニストだから特に女性には優しく、土方の前でも平気で肩を抱いたりする。そんな女性たちから傍にいる土方が敵意を向けられたことは一度や二度ではない。
大学だけでなく普段でも会いたいのに、いつだって忙しいと言って断られた。その度に一緒にいたいと思っているのは自分だけなのだと思い知らされた。ライブにも誘ったのだが夜はバイトだからと言われ、なら休みの日にと言うとそのうちに、とはぐらかされた。
会うのはいつも金時に呼び出されてだ。しかし会っても食事して、ドライブして、その後は彼の部屋になだれ込み体を重ねるだけだった。ふつうの恋人同士のようなデートなど、殆ど記憶に残っていない。
自分は男だからそんなことはないだろうと思っていたのだが、もしかして単にセックスがしたいだけなのかと勘ぐったとしても致し方ないことだろう。
それでも彼が自分に向ける微笑みが好きだった。彼の瞳に写る自身を見る度にそれだけで満足している自分がいた。
だがやはり彼を独り占めしたい欲と、そんなことはしてはいけないのだという理性のはざまで土方はどんどんと蝕まれていったのだ。
そんなときだ。彼が声を掛けてきたのは……。
彼はライブを終えた土方に一枚の名刺を差し出した。そこに書かれてある文字に土方は大きく目を見開く。
河上万斉。
アメリカを本拠地に置くヒットメーカーとして名の知れるカリスマ音楽プロデューサーだ。
彼はともにアメリカに渡らないかと告げてきた。
土方は悩んだ。今まで共に活動してきた幼なじみたちと別行動することも不安であったし、何より金時と離れ離れになってしまう。
それでも幼なじみの近藤と沖田はこんな滅多とない機会を逃すなと、背中を後押ししてくれて土方は最後の賭けに出ることにした。
金時にアメリカに行くと別れを告げる。もしそれで彼が引き止めてくれたなら、この話は断り、今のままの生活を続けよう。
ずるいことをしているとは分かっていた。保険を掛けて彼にすべてを決めさせているようなものだ。
それでも土方は金時の本心を知りたかったから、祈るような想いで彼に別れを告げた。
――――、そして彼は綺麗な微笑みを向けたのだ。





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