頂き物

□お手をどうぞ、お姫様
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早咲きの桜が咲き誇る木の下、俺はぼんやりと桃色の花と青い空を見上げていた。
ふと、聞きなれた声が耳に響く。

「いっくんー!」

どしゃっ!
俺の名前を呼びながら転けたのは、俺の幼馴染みの吹雪。ふわふわしている様子は、まるで妖精だ。ただし、もの凄くドジだ。

「大丈夫か?」

近寄って問いかけると、涙目になりながら吹雪は立ち上がった。
痛いのを耐えてるんだろうな。何もそんなに涙目にならなくても良いだろうに…

「痛いのか?」

こくり。
頷いて答える吹雪。確かに土の上と言えど、転けたせいで額と頬に小さい傷が出来ている。それが痛みの原因なんだろう。
吹雪と保健室に行き、消毒をして絆創膏を貼ってやる。まだ痛そうにしている姿に苦笑しながら、俺は救急箱を棚に戻す。

「吹雪は変わらないな」

「なに?急に」

「昔からこうやって転けた吹雪の傷の手当てをしてただろ?」

「そうだね。いつもいっくんが手当てしてくれてたね」

でも、それも今日でおしまい。
吹雪は北海道の大学に進学し、俺はこのまま雷門町に残ることになっている。

明日から吹雪の手当てをしなくなる。
明日から吹雪の笑顔が見れない。
明日から吹雪に会えない。
明日から…名前を呼ばれない。
明日から…もう一緒に高校にも通えない。

寂しいけど、吹雪はもっと寂しいって知ってる。
だから、最後くらいは笑っていたいんだ。
吹雪の前に立って手を差し出す。転んだ吹雪を起こす時にいつもすること。だけど、今日は少し違う。
俺は精一杯の笑顔で言った。


「お手をどうぞ、お姫様」
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