戦国絵巻物語

□鏡花水月  第一話「双子の姫君」
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さてその頃、花月の姉香月は...。
城の中で大切に育てられ、姫君らしく、可憐でしとやかな美しい娘に成長しておりました。
温室育ちのせいか、内気で、体が弱く、時折床に伏せたりすることがありました。

衰退の一途をたどっていた富樫家は、その頃勢力を増していた、織田家の力を恐れ、娘 香月を信長の側室にさし出すという話しが持ち上がってました。
嘆き悲しむ香月....。

大うつけとも、赤鬼とも言われる、粗野で乱暴な信長に、側室として仕えなくてはならないとは...。


香月は、父君母君の前で、泣き崩れていた。
「父上、母上、どうしても信長公の元に嫁がなくてはなりませぬか...。」

「香月、非力な父を許せ。」
苦悩の表情の父 晴貞公。
 「余は今では名ばかりの加賀守護、重臣達の意見を押さえる力も無く、勢力を増大させて強国となりつつある尾張のいいなり...。」

「殿...。」
涙ぐむ母 珠姫
「香月、何も力になってやれぬ母を許してください。」

香月は、不安と孤独な気持ちに押しつぶされそうになっていた。
信長様の所に行けば、一生お里帰りも許してくださらないかも知れない。父上様、母上様とももう二度とお会いする事が出来なくなるかもしれない。
何より、ご正室の濃姫様は、嫉妬深く気性の強い姫君だと耳にした事が...。
側室は正室と違い、身分的には使用人と同然。
小国でも、一国の姫である私が、気にも染まぬ縁談を受け、嫉妬深い姫の下で暮らさなくてはいけないとは...。

何よりも、あの大うつけの赤鬼と言われ、恐れられているお方...。恐ろしくて仕方ない。

元々繊細で、内気で、体の弱い香月は、沈み込んで心労がたまり、床に伏せるようになった。
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