聖なる騎士

□聖戦(全8ページ)
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エトラ歴1340年。


一月。


いつもの朝とは違っていた。


兵士や騎士が作り出す雰囲気が、緊張の一色に染まっていた。


ベッドに入っていたフィルは起き上がる。


「フィル様。お目覚めですか?」


「ああ…」


小間使いに訊かれ、フィルは微笑した。


しかし、実際は…眠れなかった。


人々の希望…願い…想い…。


そして、自分に対しての恐怖…不安が交差し、一睡も出来なかった。


「…フィル」


いつの間にか、ヨズフが部屋の入り口に立っていた。


「…ヨズフ…」


「久しぶり」


ヨズフは軽鎧を身につけていた。


立派に成長を遂げていた…。


ヨズフは、すぐにフィルの顔色に気付く。


「…大丈夫か?」


「…ああ…。もう、心は決めた…。この間は、悪かった…」


「いや…」


「…ヨズフが居なければ…今頃、俺は…どうなっていたのか分からない…」


一度は諦めかけた決心。


だが、これまで厳しい訓練や突き付けられてきた使命に耐えて来られたのは…親友のお陰…。


「…フィル…」


「…王様に挨拶して来る…」


「…じゃあ…またな…」


ヨズフが部屋を出ると、フィルは正装に着替えた。


身支度を済ませ…国王リルクスを訪ねた。


国王リルクスは、当てがわれた部屋に居るはず…。


フィルはドアをノックする。


「…誰だ」


「フィリップです」


「フィルか…。入ってくれ」


フィルは部屋に入る。


国王リルクスの目は赤かった。


「…王様…俺…。見張っていないと、喋ってしまうかも知れませんよ…?」


国王リルクスは聖戦には出ない。


フィルは睫毛を伏せた。


いつ、ヨズフに真実を告げてしまうのか分からない…。


国王リルクスは優しい笑みを向けた。


「お前を信じている」


そして…国王リルクスはフィルを抱き締める。


「…生きて帰って来てくれ。皆と一緒に…」


「…はい。必ず…」


フィルは、国王リルクスの涙を忘れない。


国王リルクスは国を守る為に、聖戦には出ないのだ。


退室し、フィルは城内を歩く。
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