聖なる騎士

□訓練:後編(全16ページ)
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エトラ歴1338年。


四月。


すっかり逞しくなったフィルは、荷造りしていた。


愛用の剣に傷薬。


お弁当に地図。


ちょっとした非常食。


フィルは荷物を担いで、馬に乗る。


「故郷…か」


シーナが呟く。


フィルは、仕送りする為に故郷へ戻るのだ。


「もう三年も帰ってないもんな…」


ヨズフは苦笑した。


「お土産、ちゃんと買って来なさいよ」


サニアは相変わらず、偉そうだ。


「分かってます。じゃ」


フィルは馬の腹を蹴って、マエリドルソ国を出た。


西へ向かって走ること約一日。


マエストーソの街。


「おんやまぁ…騎士様でないかぇ?」


街の人々は驚いている。


フィルは実家のドアを開けて、中へ入る。


誰も居ない…。


「お金、置いとくからね!」


フィルはお金だけ置いて、馬にまたがる。


「コラコラコラコラ!すぐ行く奴があるか!」


「え?」


実家の裏手から、男が駆け寄る。


「全く…。帰ったら、ただいま…くらい言えんのか…。イタタタ」


「ただいま」


「よし…」


「じゃ、行って来ます」


「だから、ちょっと待て!!」


フィルは仕方なく馬から降りた。


「本当に…誰に似たんだか…」


「?」


「お前…選ばれたんだってな」


言われ、フィルは頷く。


「ちょっと来い。三年も何をしていたんだ…」


男は腰を擦りながら、実家へ入る。


剣を手にして、フィルに手渡す。


「これは?」


「俺の剣だ。持って行け。イタタタ…」


「父さん。ありがとう」


フィルはお土産を買って、街を出た。


父親は…溜め息をつく。


「…久しぶりに帰ったと思ったら…。まあいい…イタタタ」


フィルの父親は、エトランド一の剣士だったのだが…。


フィルが生まれてから、リウマチに侵されて引退した。


フィルはマエリドルソ国に帰国した。


「えらく早い帰りだな…。ゆっくりして来れば良かったのに」


ヨズフは驚いた。


「これから訓練だからね」


フィルは父親から譲り受けた剣を見た。


意味を理解していた。


生きて帰って来い…という事だろう。
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