聖なる騎士
□神々に選定されし者達(全15ページ)
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エトラ歴1336年。
五月。
エトランド四大国家の一つ、マルカート国。
この国に神々の武器に選ばれた者が居る。
「聖槍アーメントゥーム」に選ばれた者…。
今年27歳を迎えたばかりの、槍の使い手だ。
名は、リッシュ=ヒナーク。
リッシュは寝苦しいと感じて、汗ばむ首を掻いた。
だが…寝苦しいのは、時期だけではないようだ。
リッシュは跳ね起きて、寝台の側に立掛けてあった槍を手にする。
もう片方の手で、ランタンを灯すと…。
居た。
入り口を塞ぐように佇む、黒い影が映る。
「…何者だ」
リッシュは冷や汗を流す。
こんな威圧感は…初めてだ。
影は一歩前に出た。
ランタンの灯火で照らされ…影は姿を現した。
その姿を見て…リッシュは槍を構えた。
『…海神ウコムに選ばれた者か…』
そいつは、ニィ…と口元を歪めた。
「…貴様…まさか…」
リッシュは察した。
そいつの容姿を見て…。
「…冥界の者…!」
そう吐き捨てるように言い、流れるような動きで…そいつ「悪魔」に向かって槍を一閃させた。
だが…悪魔は動こうとはしなかった。
リッシュに槍で斬りつけられても…傷一つ付かない。
「ハアッ!!!」
リッシュは諦めず、悪魔の胸部を槍で突いた。
槍の尖端が悪魔の胸部に突き立てられたが…悪魔は…ニヤリ…と笑う。
『…その強き心。我が貰い受ける…』
いきなり悪魔は姿を消した。
リッシュが悪魔の姿を伺う前に…背後から髪を掴まれ、床に叩きつけられてしまう。
リッシュは暴れたが…悪魔の力は凄まじく、顔面を手で覆われた。
悪魔の手が熱を帯びて、リッシュは頭の中を何かに掻き回される錯覚を感じて、悲鳴を上げた。
次第に意識は薄れ…。
「…同志…すま…な…い…」
リッシュの意識がはっきりしていたのは、そこまでだった…。