精霊伝説

□バジリスクの森(全5ページ)
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村を出て、森を南下する。


太陽が真上に昇った。


アルタ村とユルフ王国を繋ぐこの森は、最近「バジリスクの森」と名付けられている。


巨大な蛇が現れた時期と同じくして、冒険者がこの森で行方不明となる事件が相次いでいた。


ヘレンダは辺りを警戒しながら、森の中を歩く。


時々、木の枝から首をもたげて蛇が驚かせてくれる。


しかし、これらは特に害はないのでヘレンダは構わず先を急ぐ。


カナに貰ったお弁当を食べて、ひたすら歩いた。


夜になり、少し疲れたと木の幹に腰掛ける。


(…一体、どれくらい歩いたのかな…。まだ遠いのかな)


ウトウトと首を傾けていると、少し離れた所の薮が音を立てた。


「?!!」


噂に聞く巨大な蛇かも知れない。


ヘレンダは慌てて立ち上がり、辺りを見回す。


「…だ…誰か…」


かすかにだが、声がした。


「…ど…どうかしたの…?」


「誰か…誰か、そこに居るのか?頼む…助けてくれ…」


女性の声だ。


ヘレンダは声のする辺りへ駆け寄った。


薮を掻き分けると、人間が露出させた太ももを押さえ、うずくまっている。


「大丈夫ですか?!」


「…助けてくれ…。蛇に…噛まれて…」


赤く薄い布を着た、赤い髪の女性だ。


キツネのように吊り上がった瞳は緑色だった。


ヘレンダは薬草を女性に飲ませ、傷口を裂いた手ぬぐいで巻いてやる。


次第に女性の唇に、赤みがさした。


「…もう、駄目かと思った…。ありがとう、助かった」


「間に合って良かった…。一人で旅をしてるんですか?」


「いいや。薬を手に入れて来ると言って、連れがアルタ村に向かったまま帰って来なくてな」


「アルタ村…ですか」


女性は何かに気付いて、ヘレンダの外套を掴んだ。


「ラベンダーの香り…。君は、アルタ村の人間なのか?」


「ええ」


「だったら…こう…柄の広い帽子を被った、魔導士風の男を見なかったか?私の連れなんだ」


女性がジェスチャーするが、ヘレンダは首を振った。


確かに旅人は来たが、あの二人は「魔導士風」ではなく「剣士風」だった。


「そうか…」


女性は溜め息をついた。
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