精霊伝説

□旅立ち(全6ページ)
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フィンブル歴4317年。


季節は真夏。


ナノレイク村が壊滅してから、15年の月日が流れていた。


ここ、アルタ村では…何の変化もなく、これまでも穏やかな時間が流れている。


唯一の大きな出来事といえば、15年前に赤ん坊を抱えた一人の女が村の外に倒れていたくらいだ。


「何か起こらないかなぁ…。平和過ぎて仕方ない」


「平和なのが一番だろ?他の大陸なんて、魔物退治の為だけに軍が動いているって話だ」


「怖い世の中になったものだねぇ」


村人達は、野菜や果物の収穫を終えたので暇を持て余していた。


「小母さん。何か手伝うことはないかな?」


会話に華を咲かせていた中年女性の元に、金色の髪の少年が駆け寄って来た。


「やあ、ヘレンダ。もう羊の毛は刈り終えたのかい?」


「うん。今年も沢山刈れたんだよ」


「そうかいそうかい。もう、あらかた終わったからね。遊んでいて良いよ」


「はぁい」


少年が走り去ると、村人達は笑顔で見送る。


「そういえば…。ヘレンダは今日で15歳になるのか」


「早いものだなぁ…。母親に死なれて、村長の家に預けられた時はどうなるかと思ってたけど」


「村長もカナも、人あたりが良いんだ。ヘレンダがあそこまで育ったのは二人のお陰さね」


中年女性は、夕食を作らなきゃと井戸端を立ち去る。


アルタ村は小さな村。


そのお陰で、村人達は家族同然だ。


金色の髪の少年…ヘレンダは、緑の匂いのする風を受けて、伸ばしっぱなしの髪を押さえる。


(…今日は風が強いな…)


真夏だというのに涼やかだ。


それはいつものことなのだが、今日はどこか違った。


やることもないので、村のすぐ側の森へ入った。


この森には、お気に入りの場所があった。


少し歩いた先には、小さな花畑がある。


色とりどりの花が咲き乱れ、風に舞う花びらは虹を砕いたかのようだ。


ヘレンダは花畑の中、仰向けに倒れる。


もう夕方なのだが、まだ日は高い。


ウトウトと目を閉じようとすると、鼻の頭に蝶が羽根を休めに来た。


「これは鼻でも、花じゃないよ」


蝶を指で導き、傍らに咲いている花の上に置いてやる。


蝶は美味そうに蜜を飲んでいる。


ガサッ…と草を踏む音がすると、蝶は飛び去った。
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