精霊伝説
□海の魔物(全12ページ)
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船はカサバハ港町に向けて、南東へと走っている。
シーサイダ大陸を去って、1日目。
「…うぅえ…」
「姉さん、しっかり」
船酔いにより、船縁で吐いてしまっているレンディの背中をアーデが擦ってやっていた。
「だ…大丈夫ですか?レンディさん…」
「船に乗ってから、ずっと吐いてばっかりやないか」
ヘレンダとナディラが心配そうに声を掛ける。
「レンディは昔から乗り物には弱くてね」
「辛そうやなぁ。俺、水でも持って来よか?」
「ああ、助かる。ヘレンダ…すまないが、少し見てやっていてくれないか。薬を調合して来るから」
「分かりました」
ナディラとアーデがそれぞれ去り、ヘレンダはレンディの背中を擦ってやる。
「…見苦しくて…すまないね…。うぅ…」
「気にしないで下さい。レンディさん、下を向くと余計に気持ち悪くなっちゃいます。地平線を見るんです」
「…地平線…」
レンディは恐る恐る顔を上げ、濁った魚のような目を前方へと向けた。
空は晴天だが、地平線からは入道雲が覗いていた。
落ち着いたのか、レンディは潮風に当てられて、ずっと地平線を見ている。
「やあ、すまなかったね」
アーデとナディラが戻って来た。
アーデは調合した薬草と、ナディラが持って来た水をレンディに差し出し、飲ませた。
「…これは…荒れるかもな」
アーデが空を見て呟いた。
「こんなにええ天気やのにか?」
「ああ。本荒れになれば、サハギンが襲って来るかも知れない。ナディラ、マークルにより警戒するよう言ってくれ」
「え…ええけど…」
ナディラが立ち去ると、ヘレンダは首を傾げる。
「サハギン…とは?」
「半魚人を知ってるか?」
「半魚人…人魚、ですか?」
「ああ。サハギンは、魔物化した人魚の雄でね。強さは大したことはないんだが、奴らは体勢を崩した中を群れをなして襲って来るからタチが悪い」
「へぇ…。僕達は精霊石に力を吸い取られている。油断は禁物ですね」
「ああ」
空が暗雲に覆われてくると、アーデはレンディを船室へと引き上げさせ、ヘレンダは船首に立った。