天馬の騎士
□古の武器(全11ページ)
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八月の終わり頃。
レルフはユルーマと牧場へ赴いていた。
レルフの側近となった黒騎士スコームの配慮で、何ヶ月ぶりかの休暇を貰ったのだ。
「今日は一日、羽根を伸ばそう」
「キャアッ!レルフ!見て見て!」
ユルーマはプライベートで外へ出るのは初めてだ。
旅人用の軽い服を着て、牧場を駆け回っている。
この牧場は、ファリラ小国の騎馬となる馬の育成や家畜の牛や豚の繁殖・管理を行っている。
山羊や羊もいる。
ファリラ小国から南に位置していて、国からは徒歩半日の距離だ。
「王子。最近産まれた子馬がいるんですが…見ます?」
牧場の主がそう声を掛けて来た。
「へぇ…。是非」
レルフとユルーマは、小屋で母親のお乳を飲んでいる子馬を見た。
「…おやっ?」
レルフはいきなり、一つに束ねた銀色の長髪を引っ張られた。
振り向くと、まだ小柄な…黒い馬が「ニカッ」と笑った…ように見えた。
「わぁ…可愛い♪」
ユルーマは黒馬の首を撫でた。
黒馬はユルーマに鼻ぐらを擦りつけている。
「人なつっこい奴だなぁ…」
「そいつは、みなしごなんですよ」
牧場の主は言った。
「まだ産まれたばかりの頃、この牧場に捨てられていましてね」
「主人。相変わらずだな」
「アハハ。家畜だろうと何だろうと、動物は動物ですから」
牧場の主は動物好きだと有名だった。
「人なつっこい奴に、騎馬は無理だ…」
「騎馬?」
「ほら…例の黒騎士の…」
「ああ…。先日、国王より承ったんですが…」
牧場の主は溜め息をついた。
「種馬となるのは、ザーク様のレデュースなんですがね」
「だろうな…」
ザークの愛馬レデュースは体が大きい。
「リシース様のパメラとの掛け合わせとなるしかないんですが…」
リシースの愛馬パメラは、足が速い。
「…主人、何とか頼むよ。父上のエンペストはもう種植え出来ないからね」
レルフは苦笑した。
過去、レデュースとパメラとの掛け合わせで産まれた…イージルの愛馬エリザベス。
産まれるまで、牧場の主は相当苦労した。
「レデュースはザーク様の命令しか聞かない…。パメラはプライドが高いので…相手を選ぶんです…うぅ…」
牧場の主は泣いた。
レデュースとパメラは相性が悪い。
レルフも理解していた。