天馬の騎士

□ペガサシール(全22ページ)
1ページ/22ページ

トーナが行方不明になって、一週間が過ぎた。


私室で、レルフは…トーナが姿を消した際に落とした騎士の証…ルビーを見ていた。


「…申し訳…ありません…」


ザークが土下座していた。


「…ザークは知っていたのか…?」


リシースが訊いた。


「トーナが…天馬だった事…」


…ザークは黙って頷いた。


「分からん…。どうして…ペガサシールが…人間の姿に…?」


子犬はリシースの足元で伏せていた。


「…ペガサシール?」


リシースが訊いた。


「暗黒大戦の為に、聖火竜が自ら聖域に赴き…選んだ天馬を指す」


「選んだ?」


「魔雷竜の周りの空気は猛毒だ。だが、天馬が放つ聖気のお陰で…ヴァサーラ達は魔雷竜に近付けたのだ」


子犬は溜め息をついた。


「しかし、並大抵の聖気では魔雷竜の前では無駄なもの。だから聖火竜が、最も力の強い天馬を選んだ」


「…それが…」


「…20年前の暗黒大戦で、選ばれたのが…トーナだ」


子犬はレルフの足元に腰掛けた。


「天馬の寿命は…人間と同じ。だから、トーナは…まだ六歳の子供だった。人間の六歳と全く変わらない…」


レルフは…子犬を見下ろした。


「俺は、地上に生ける動物と言葉が交せる。トーナと、よく話をしていた」


「………」


「…天馬は、聖火竜に選ばれた時点で…死ぬ運命にあった。その乗者も同じくな…」


子犬が言った。


レルフは…子犬を見ている。


「…大怪我をしたあいつを帝国で拾って…。でも、なかなか…なついてくれなくて…。トーナは…怪我が癒えると…故郷へ…」


ザークが涙を流しながら言った。


「…乗者を…失い…生き残ってしまった…。それを…故郷の仲間達に…責められ…追放されたと…。戻って来たトーナは…泣いていた…」


ザークは涙を拭う。


「だから…だから、トーナは…レルフ様を知っていた…。レルフ様が聖火竜の子供だと、知っていた…。レルフ様が好きだと…言っていた。レルフ様の話をすると、よく笑顔を見せていた…」


ザークは泣くばかり。


子犬はリシースの腕の中へと飛び乗る。


レルフは…ルビーを握りしめ、涙を流した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ