天馬の騎士
□ペガサシール(全22ページ)
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トーナが行方不明になって、一週間が過ぎた。
私室で、レルフは…トーナが姿を消した際に落とした騎士の証…ルビーを見ていた。
「…申し訳…ありません…」
ザークが土下座していた。
「…ザークは知っていたのか…?」
リシースが訊いた。
「トーナが…天馬だった事…」
…ザークは黙って頷いた。
「分からん…。どうして…ペガサシールが…人間の姿に…?」
子犬はリシースの足元で伏せていた。
「…ペガサシール?」
リシースが訊いた。
「暗黒大戦の為に、聖火竜が自ら聖域に赴き…選んだ天馬を指す」
「選んだ?」
「魔雷竜の周りの空気は猛毒だ。だが、天馬が放つ聖気のお陰で…ヴァサーラ達は魔雷竜に近付けたのだ」
子犬は溜め息をついた。
「しかし、並大抵の聖気では魔雷竜の前では無駄なもの。だから聖火竜が、最も力の強い天馬を選んだ」
「…それが…」
「…20年前の暗黒大戦で、選ばれたのが…トーナだ」
子犬はレルフの足元に腰掛けた。
「天馬の寿命は…人間と同じ。だから、トーナは…まだ六歳の子供だった。人間の六歳と全く変わらない…」
レルフは…子犬を見下ろした。
「俺は、地上に生ける動物と言葉が交せる。トーナと、よく話をしていた」
「………」
「…天馬は、聖火竜に選ばれた時点で…死ぬ運命にあった。その乗者も同じくな…」
子犬が言った。
レルフは…子犬を見ている。
「…大怪我をしたあいつを帝国で拾って…。でも、なかなか…なついてくれなくて…。トーナは…怪我が癒えると…故郷へ…」
ザークが涙を流しながら言った。
「…乗者を…失い…生き残ってしまった…。それを…故郷の仲間達に…責められ…追放されたと…。戻って来たトーナは…泣いていた…」
ザークは涙を拭う。
「だから…だから、トーナは…レルフ様を知っていた…。レルフ様が聖火竜の子供だと、知っていた…。レルフ様が好きだと…言っていた。レルフ様の話をすると、よく笑顔を見せていた…」
ザークは泣くばかり。
子犬はリシースの腕の中へと飛び乗る。
レルフは…ルビーを握りしめ、涙を流した。