天馬の騎士

□家臣(全8ページ)
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七月。


鬱蒼とした森の中。


「ザーク…」


赤い鎧を着た女性騎士が、前方を歩いていた男性騎士を呼んだ。


「どうした?」


漆黒の鎧を着た男性騎士は、馬を止めた。


「どうした…ではない。ここ、さっきも通らなかったか?」


「気のせいだろ」


男性騎士は地図を見る。


「ザーク…地図が…」


「ん〜?」


「…上下逆さま…」


「お…やれやれ…」


男性騎士は溜め息をついた。


「私が見る」


「それは出来ない。この前、それでリアンブルグまで行ってしまったんだろう?」


「う…」


「早く、帝国の情勢を国王に知らせなければな…」


「ファリラ小国まで…後、半月…か?ああ…」


「リシース。疲れたのか?」


「当たり前だ。一週間も歩き通しだぞ。お前は不死身か」


女性騎士は、騎馬の腹を蹴って歩き出した。


「ああ…そこを右に曲がってくれ」


「…マイペースだよな…ホンット!そろそろ国が恋しくなってきたぞ…」


「まあな」


二人は森の中を歩く。


ひたすら歩く。


これでもかというくらい歩く。


丸三日歩いて、着いた先は…南国メルソナ。


「何で南下しているんだ?ファリラ小国は西だろう?」


「はあ?ファリラ小国は東だ。馬鹿野郎」


仕方なく、二人はメルソナ国へ入国した。


…この二人こそ、ファリラ小国最強の騎士…ザークとリシースだ。


リシースは聖騎士。


ザークは…異例で、漆黒の鎧を着ている事から「黒騎士」と呼ばれている。


地位は聖騎士と変わらないが、黒騎士は…本当に異例で、国王でさえ原因が分からないという。


二人は人目につかない場所で、鎧を消した。


宿を取り、国から少し離れた湖で…実に一週間ぶりに垢や汗を洗い落とす。


「もはや、お前の裸にもときめかなくなった。ぶっちゃけ、見飽きた。どうしてくれるんだ」


リシースは恥じらいもなく、堂々と裸体をさらけ出しながら布で脇を拭いた。


「それは困ったな。俺は堪能出来て、万々歳なんだが」


「やかましい」


…この二人、恋人同士の関係ではない。


たまたま一緒に居た所を国王に拾われて…国王にワンセットとして扱われていただけだ。


だから、一緒に育った。


それだけの関係だ。


…今の所は。
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