天馬の騎士
□婚約(全16ページ)
1ページ/16ページ
五月。
ファリラ小国の城下町は、各国から来た商人や本国の商人達によって露店が増えて、賑わっていた。
城内でも、柱や壁が綺麗に装飾がなされ…来客達が大広間で会釈を交わしていた。
今日は、特別な催しがあるのだ。
「早いものだ。私も年を取る訳だな」
「アッハッハ!国王、嬉しそうッスね」
「ああ…」
国王は、トーナと謁見の間にいた。
今日、王子レルフと…隣国セレーナの王女が正式に婚約する。
その儀式が執り行われるのだ。
「それでは、トーナ。後は頼んだぞ」
「任せて下さい」
トーナが走り去ると…国王は睫毛を伏せた。
「…レルフ…許してくれ…。サーラ…すまない…」
国王は、怖くて告げられなかった。
レルフが、聖火竜サーラの実の子供である事を…。
だが、聖火竜自身も…レルフが二歳の誕生日を迎えた時、言ったのだ。
『もし…私が消えたなら…』
『え…』
『私は…人間ではありません。神なのです。真実を知れば…きっと、レルフは悲しみます』
『しかし…』
『何があろうとも…レルフの母親は、死んだ事にして下さい。その方が…私の為でもあります。何より、レルフの為…』
『消える…?そんな訳がないだろう!君はきっと守る!』
『ヴァサーラ…愛してます…』
国王は目頭が熱くなり、摘んだ。
「まさか…本当に、居なくなるとは思っていなかった…」
聖火竜を愛してるからこそ、ヴァサーラは真実を告げない。
そして…レルフを愛しているからこそ、真実を告げるのが怖かった。
板挟みされ、ずっと…感情と葛藤していた。
「ああ…しかし…。レルフは、幸せだ…。これで良いのだ…これで…」
今日は、何も知らない息子の門出だ。
国王は息子の幸せを願う。
それが、聖火竜の望みでもある…。