天馬の騎士

□婚約(全16ページ)
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五月。


ファリラ小国の城下町は、各国から来た商人や本国の商人達によって露店が増えて、賑わっていた。


城内でも、柱や壁が綺麗に装飾がなされ…来客達が大広間で会釈を交わしていた。


今日は、特別な催しがあるのだ。


「早いものだ。私も年を取る訳だな」


「アッハッハ!国王、嬉しそうッスね」


「ああ…」


国王は、トーナと謁見の間にいた。


今日、王子レルフと…隣国セレーナの王女が正式に婚約する。


その儀式が執り行われるのだ。


「それでは、トーナ。後は頼んだぞ」


「任せて下さい」


トーナが走り去ると…国王は睫毛を伏せた。


「…レルフ…許してくれ…。サーラ…すまない…」


国王は、怖くて告げられなかった。


レルフが、聖火竜サーラの実の子供である事を…。


だが、聖火竜自身も…レルフが二歳の誕生日を迎えた時、言ったのだ。


『もし…私が消えたなら…』


『え…』


『私は…人間ではありません。神なのです。真実を知れば…きっと、レルフは悲しみます』


『しかし…』


『何があろうとも…レルフの母親は、死んだ事にして下さい。その方が…私の為でもあります。何より、レルフの為…』


『消える…?そんな訳がないだろう!君はきっと守る!』


『ヴァサーラ…愛してます…』


国王は目頭が熱くなり、摘んだ。


「まさか…本当に、居なくなるとは思っていなかった…」


聖火竜を愛してるからこそ、ヴァサーラは真実を告げない。


そして…レルフを愛しているからこそ、真実を告げるのが怖かった。


板挟みされ、ずっと…感情と葛藤していた。


「ああ…しかし…。レルフは、幸せだ…。これで良いのだ…これで…」


今日は、何も知らない息子の門出だ。


国王は息子の幸せを願う。


それが、聖火竜の望みでもある…。
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