天馬の騎士

□森林の小国(全8ページ)
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第二次暗黒大戦から、20年の月日が流れた。


ファリラ小国は森に囲まれ、緑が豊富な国。


だが、深刻な悩みがあった。


「食料に不自由はしないのに…」

「ここ十年か?こんなに水に困るなんて」


ふたりの兵士が城の庭で穴を掘っていた。


「国の為なら」

「国王の為なら、えんやこりゃ…っと」


雨量が少なく、井戸は枯れかけている。


「あの井戸も気まぐれだからなぁ」

「全く。こんなに汗をかいちゃあ、喉が渇く」

「幸い、城下町の向こうには湖があるけど…仕事があるし、行ってる暇なんてないよ」

「水汲みに行った連中が羨ましい。きっと浴びるほど飲んでるぜ」

「俺らも頑張って、新しい水脈を堀りあてよう」

「そら、えんやこりゃ…っと」


ふたりの兵士は穴を堀り続ける。


まだ春だというのに、太陽は肌を焼いた。

まるで真夏のようだ。


その様子を見ていた国王ヴァサーラも、玉座には座らずに分厚い本を読みあさる。


ドアがノックされ、兵士が部屋を訪れた。


「国王陛下。殿下が帰国しました」

「そうか」

「それと…隣国セレーナの王女殿下と婚約を希望されているのですが…」


ヴァサーラは驚いた。


「セレーナの王女は…まだ世間に公表出来ない年齢のはずだが?」

「はっ。しかし、殿下がそのように仰っておられます」

「すぐに謁見の間へ来るよう申しつけよ」

「はっ!」


ヴァサーラは謁見の間の玉座に腰掛け、待った。


数刻もしないうちに、銀色の長髪の青年が現れる。


青年はひざまずき、ヴァサーラを見上げた。


「レイルニーフ、隣国セレーナより帰国いたしました」


「五年の教養を終えて、よくぞ無事に戻った。して…セレーナ王女殿下と婚約を取りつけたいとは?」

「隣国セレーナは独立国家。しかし、国王陛下も承知であります。婚約を結び、我が国と同盟を締結する事を望んでおられる」

「ふぅむ…」

「陛下?」

「…お前も、もう23か。良かろう。好きにするがいい。私を幻滅させぬようにな」


ヴァサーラが苦笑すると青年は微笑み、一礼して謁見の間を去った。


「忙しくなるな」


ヴァサーラは玉座に腰掛けて、深い溜め息をついた。


(そうだったな…。もう、23歳になったのだな…。月日が経つのは早いものだ…)


我が子の年齢を認識し、彼は身体的にも精神的にも余計に老いを感じて溜め息ばかりついていた。
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