聖者と覇者

□夢見(全3ページ)
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『十歳のお誕生日、おめでとうございます』


ある日、大人の男が私室を訪ねて来た。


『誕生パーティーへ出たくはないとお聞きしました。何故です?』


パーティーとは、王子リオールと王子ギルドの、十歳になる誕生日の催しだ。


『…誰だ、貴様…』


男はひざまずくことなく、屈んで…このギルド少年と向き合っている。

普通なら、王子に対して無礼な姿勢である。


『この度、王子ギルド様の側近を命じられた、ディルスと申します』

『側近…か』


ギルドは実年齢よりも幼い容姿ながら、大人びいた口調で有名だった。

自国では生意気だと囁かれる傍ら、遠い国の上層部にはしっかりしていると褒められ、評判が良かった。


『パーティーへおいでにならなければ。国のお偉い方々が沢山、お見えになられているんですよ?』

『挨拶は済ませた』

『勿体無い気がします。誕生日ですよ?』

『また来年があるからいい』

『…それもそうですね』


ディルスは潔く立ち上がる。


『一つお訊きしたいんですが…。どうして、あなた方は仲がよろしくないんですか?』


仲が悪い訳ではなかった。


王子ギルドが兄王子リオールに対してきつく当たることは、周知。

兄王子リオールは積極的な性格のようで、いつでも笑顔が絶えないと国民や両親からの評判が高い。


『イライラするんだ。どんな嫌味を言っても…皮肉を言っても、ヘラヘラしやがって…。相手の気持ちを、ちっとも考えやしない』

『確かに』


ディルスは頷く。


『並外れた成長の仕方…容姿、知性。両親はアイツを溺愛している。双子なのに、どうしてこうも違うんだと…』

『…感心できませんね』

『俺は落ちこぼれだ。王位継承権も持たない、ただの無能な王子だ。そう言われ続けて、十年目…か。早いものだ』

『……周りに理解されないまま、あなたは成長されたのか。確かに、リオール様は利発で前向きのようだ』


ギルドはディルスの言葉に驚いて顔を見上げた。


『それじゃあ、ギルド様がイライラするはずだ。ギルド様が何故、リオール様に対してお怒りになっているのかを、リオール様自体が根本的にわかっていらっしゃらない。違いますか?』

『………お前………』


ギルドは涙を隠す為に、ベッドに身を横たえた。


『…俺の側近なんて、勿体無いよ、お前。父上に頼んでおくから、もっと優れた者に仕えるといい』

『やっと念願が叶ったというのに、それではあんまりだ』

『念願…?』

『貴方のお側でお仕えしたいという、人生で初めて抱いた夢、目標…ですかね』


ディルスはベッドに腰掛け、ギルドの頭を撫でた。

ヒトに頭を撫でられたことがなかったギルドは驚き、ディルスを見る。


『私は、幼き頃の貴方から数多くの事を学び、近衛騎士に志願しました。いつか貴方のお側でお仕え出来るよう願っていた所、国王直々にお達しがあったんです』

『分かった分かった』


ギルドはこの時、この熱血馬鹿をどうしてくれようかと、思考を巡らせ始めたのだった。

自分には勿体無いと思っていたから……。
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