聖者と覇者

□二人の聖女(全6ページ)
1ページ/6ページ

翌朝。


目を覚ましたギルドは、泉のへりに立った。

泉はバルロス現象に侵され、紫色だ。

相変わらず放つ死臭に溜め息が出る。


「そりゃあ、溜め息もつきたくなりますよねぇ」

「しかし…何の原理でこうなっているんだろう」


ディルスとロアが連れ立って現れた。


「聖女は?」

「まだ眠ってましたよ。ロアに揺さぶってもらいましたが、よほど深い眠りについているようで」

「まったく…。自分で起こして差し上げればいいのに。どれだけ後ろめたいことがあるんだ」

「いやぁ…若気の至りってやつがだな」

「不潔。変態。貴様なんぞ打ち止めになってしまえばいいんだ」


現実逃避に走ろうとしている双竜聖騎士のやり取りを聞いていたギルドは、深い溜め息をついた。

聖女がいなければ、どうにもならない。


「仕方ない。諦めて先を急ごう」


そんな時、リオールが目を擦って歩いて来る。


そして…。


泉を見て、着ている物を脱ぎ始めた。


「リオール様。寝ぼけてないで…」


ロアが止めようとしたが、リオールは首を横に振り、全裸になる。


何の躊躇もなく泉に飛び込んだ。


「!?」
「な…」
「!」


泉は一瞬光り…。

聖女の時とは違い、すぐにその本来の姿を取り戻した。


「な…」

「どういうことだ…?」


一瞬、何が起こったのか分からない。


しかし、リオールが青い泉で気ままに泳ぐ姿を見て、我に返る。


「…まさか…そんなこと…」


ギルドは着衣を解かずに泉へ入る。


水面が腰までくると立ち止まり、リオールを目で追う。


「リオール…お前…」


リオールは視線に気づき、ギルドを見つめる。


リオールは泣いていた。


「ギャフッ!!!!」


バルラが今までにないような声で鳴いた。


「ど…どうしたんだ、バルラ…」


ロアは驚いてバルラを見た。

竜はリオールの周りを旋回する。


「…聖女が…二人…?何で…?だって…前世の記憶があって…潜在魔力も備わっていて…オーラを放っていて…」


ギルドが呆然と呟くと、リオールは涙を流しながら頷く…。


「知らない…知らなかった…。リオールは…だって…」

「ギルド様…。国王とフォルスタン国女王が兄妹だということを…お忘れですか?」


そう…100年前、掟に逆らった結果である。


勇者の血族のバシュリッツ国王位継承者が聖女だという事実など、前代未聞だ。


「…リオール様は、聖女であることが嫌なんですか?」


泣いているリオールにロアが尋ねると、彼はコクリ…と小さく頷いた。


「聖女に話してないみたいだよな…?」


ギルドが訊くと、リオールは口を動かして必死に何かを伝えようとするが…理解できない。


更なる疑問を抱いてしまった一同は、身支度を整えて先を急いだ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ