聖者と覇者
□陥落(全8ページ)
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その日。
ギルドはメイドに叩き起こされた。
こんなことは、初めてだった…。
「どうした」
「こ…国王と…フォルスタン国の女王様が…口論に…」
メイドの顔色に、ただ事ではないと察した。
ギルドは素早く身支度を整えて、謁見の間へ急いだ。
父王と、豪華なドレスを着たフォルスタン国の女王が広間のど真ん中で叫んでいる。
「そなたの家臣が、我が国へ来たそうですね!!」
「聖女の資料は全て、そなたの国に保管されとるのだ。何故、それすらも許さぬのだ?!」
「ならば…どうして聖女のことを調べる必要があるのですか?!我が国は今、内乱鎮圧の為にほとんどの兵士が城を空けております!何かあったら、どう責任を取るおつもりなんですか!」
「私の家臣がそれほど信用がないと…。そう仰るんですな!」
「そうです!!城へ入ったそなたの家臣は見つけ次第、処刑致します!!今もなお逃亡しておるということは、何かしらやましいことがあるが故のことでしょう!?」
ギルドは慌てて父王の元に駆け寄り、女王を睨んだ。
「家臣は処刑で構わない。だから…帰ってくれ」
女王はギルドを睨み返し、きびすを返して立ち去った。
父王は溜め息をついて、玉座に腰掛ける。
「ギルドよ…。聖女を…守るのだ…」
「父上?急に、どうされたのですか?」
「何やら胸騒ぎがしての…。ディルスにフォルスタン国で聖女のことを調べてくれと言ったはいいが…やはり、不安じゃ」
ギルドはお辞儀をして広間を離れ、愛馬ファルドに乗って聖女の塔へ赴く。
塔の窓を見上げた時、暗雲が聖女の塔を避けて世界中を覆っていることに気づく。
「…精霊よ。我に加護を…」
浮遊するが、いつもと調子が違った。
ギルドが魔法を使用する際に、その魔力を具現化させる精霊がザワザワとざわめいているようだ。
「落ち着け。何も恐くないから」
魔力で精霊を正気に返らせ、窓から中へ入った。
聖女は部屋の真ん中でひざまずき、祈っている。
「聖女。一体…あの暗雲は…」
聖女は顔を上げた。
ギルドは後ろ手に窓を閉めた。
「精霊達が焦っている。何かが起きようとしているんじゃ…」
「暗雲…?ごめんなさい…。私には、分からない…」
聖女は窓へ近づき、空を見上げる。
「本当…精霊達が…。どうしたのかしら…」
聖女は手を組んで、また祈った。