聖者と覇者

□奇妙な鳥(全2ページ)
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王子ギルドの私室がある向かい側にある、ディルスの私室にて。


「ギャフッ。ギャフッ」


部屋はそれとなく豪華だが、王子の側近にしては質素だとメイド達は言う。


タンスの上に置かれている、布が掛けられた籠から先ほどから声がする。


「はいはい」


重い正装を解いたディルスは、籠に掛けてある布を取った。


「ピギャッ」

「飯にしよう」


背中に持つ翼を羽ばたかせ、そいつはディルスの肩に捕まった。

それは「ギャフッ」と鳴き、体は翠の綺麗な色で…大きな瞳は金色をしている。


ディルスがそいつと卓上に並べられた料理をがっついていると、ドアがノックされた。


「誰だ」

「俺だ。開けるぞ」


ドアを開けて部屋へ入って来たのは、ロアだった。


「…それ、前から思ってたんだが…何なんだ?」

「卵から孵ったから、鳥じゃないのか?」

「鳥にしてはデカイし…角なんか生えてるし…翼もおかしいし…手があるし…。本当に鳥なのか?」


卓上で料理をバクバクと食べているその奇妙な鳥を見つめ、ロアは首を傾げていた。


「ギャフッ」

「今日は、ロアと一緒に寝るんだぞ」


ディルスはそいつの頭を撫でた。

そいつは寂しく「ギュゥ…」と鳴き、ロアをちらっと見る。


「…それは構わない。しかし…ディルス。気をつけろよ」

「わかっている。ほら、そこへ座ってくれ」


今夜、ディルスは聖女の資料を散策しにフォルスタン国へ行くことになっていた。


フォルスタン国は近日、きなくさくなっている。

旅人の入国を許されず、そういう者達は全てバシュリッツ国へ流れて来ていた。


示された椅子に腰掛け、ロアはディルスを見る。


「いつ帰るんだ?」

「ああ。明朝、帰国する予定だ」


ロアは胸騒ぎを隠せない様子だ。

ディルスはワインが注がれたグラスを手渡し、自らもグラスを手に取った。


「お前とこうして飲むのも、久しぶりだ」

「ああ。悪くない」


ディルスは笑い、ロアは苦笑して互いのグラスを傾ける。

コン…とかん高い音が響き、料理をバクバク食べている奇妙な鳥は「ピギャッ」と喜んでいるようだった。
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