聖者と覇者
□追憶(全3ページ)
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『こんな所に塔があるなんて、知らなかったな〜』
魔の呪いによって失明してから一年後くらいだろうか。
何者かが部屋に入って来たようだ。
『ずっとここに一人で居たの?』
訊かれ、塔の一室に幽閉されていた少女は頷いた。
足音が近づき、少女は身をこわばらせて一歩、後ろへ退いた。
『…あなた、誰…?』
『俺、バシュリッツ国王子。リオール=リンデ=ヴァルツ』
手を取られ、甲に柔らかいモノを当てられ「チュッ」と音が鳴った。
少女は首を傾げた。
『君、どうして目を閉じたままなの?』
『…目が、見えないの…』
少女はうつ向いてしまうと、両手を掴まれてふっくらしたモノに触れさせられた。
『俺の顔、分からないかな?』
少女は恐る恐る触ってみた。
手の甲に感じた柔らかなものが唇だと気づくと、そこから鼻やまぶたに触れて形を想像した。
自分と同じヒト…。
初めて自分と同じヒトが、今ここにいる…。
ふっくらした頬、大きな瞳…柔らかい唇は笑っている。
少女は、ヒトの存在に安心したが…。
『…私は…聖女』
そう言って寂しい表情になってしまう。
『聖女…?』
『かつて…闇が支配する時代、私は勇者と共に旅に出た。それ故このような場所に…』
少女とは思えない言動を呟き、またうつ向いてしまう。
『…可哀想だね』
そう言われ、手を握ってくれる。
『俺、木登り得意だからいつでも来るよ。いいでしょ?』
『…また、来てくれるの…?』
『うん!!』
少女は初めて笑った。
『もう帰らなきゃ…。母上がうるさくって』
『そう…』
『また明日ね!!』
そのヒトは、窓からガサガサと音をたてて部屋を出たようだ。
少女はまた沈黙と暗闇に支配された。
早く明日が来るといいな…と、少女は初めて楽しみを知った。