聖者と覇者
□盲目の少女(全3ページ)
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毎日の日課で、王子ギルドが必ず行く所がある。
城下町で、今日も花売りの子供から花を全て買った。
「いつもありがとう。お兄ちゃん」
「こちらこそ、綺麗な花をありがとう」
愛馬ファルドに乗って、バシュリッツ国を出た。
走ること約半日。
バシュリッツ国領地と隣国フォルスタン領地の間に、塔がある。
―――聖女の塔。
ギルドはそう名付けた。
まだ誰も、この塔が何の目的で建てられた物なのかを知らなかった。
ギルドも知らなかったのだが…。
――二年前。
双子の兄の、リオール=リンデ=ヴァルツが旅に出る際に真実を知った。
『聖女を頼む。俺の愛する人を守ってやってくれ』
旅装束に身を包んで、大きな剣を背中に携えて旅立って行った。
それから、兄王子リオールは消息不明となった。
今も尚、捜索隊が各地に派遣されているが…情報が全くなかった。
ギルドは兄王子リオールが世界一、嫌いだった。
双子として生を受けたにも関わらず、リオールは人並み以上の成長を遂げた。
十歳にして王立大学院を主席で卒業し、剣の腕も並外れ…背丈も大人並。
兄が魔法を一切使えなかったことから、ギルドはリオールを敵視してその才力を魔法へと注いだ。
ギルドがどれだけ頑張っても、母王妃はリオールをひいきして、ギルドを「無能」「無力」呼ばわりさえした。
ギルドがどんな嫌味を言っていじめようが、リオールは笑っていた。
彼の笑顔は、神経を逆撫でする。
馬鹿にされているとしか思えなかったギルドは、リオールから遠ざかった。
だから、消息不明でも心配はしない。
不安にもならない。
ただ…リオールが愛した人はどうだろうか。
ギルドは塔を見上げた。
入り口はない。
遥か頭上に窓があるだけだ。
森の木々に囲まれるように塔は建っている。
魔法でも使わなければ中に入るのは無理だ。
リオールは周りの木々に登り、並外れた運動神経を利用して訪れていたらしい。
今、ギルドが手に持っているのは百合の花。
リオールが愛した人は花が好きだという。
何が何でも笑顔でいてほしかった。
それが、兄王子リオールに託された意志だ。
ギルドが唇に指を当てると、周りの木々や空気が共鳴し合う。
「汝、我の精霊と一体と化し…我に従え」
地面から風が起こり、ギルドの体が浮いた。
「浮遊。我に加護を…」
魔力を操り、遥か頭上の窓の前に立った。
そして…窓を開いて中へ入る。