聖者と覇者
□双竜聖騎士(全3ページ)
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―――バシュリッツ国。
勇者の血族が代々、統治し繁栄している大国だ。
馬を半日ほど走らせた所には、聖女の血族が統治するフォルスタン国がある。
二つの国は友好国として、互いに助け合ってきた。
やはり聖女の血族が統治するというだけあってフォルスタン国の方が武力や資産は大きいが、これまで関係は保たれている。
バシュリッツ国の王子ギルド=リンデ=ヴァルツは、幼い頃より知識に恵まれていて…。
自国の納税調査や王国騎士や兵士達の給料配分等を巧みにこなしている。
だが…知的な王子にはコンプレックスというべきものがあった。
それは…。
「王子。王子〜?」
王城の庭の、石垣から声がする。
さほど高くもない石垣の上から、男が顔を出している。
「どこ見てんだ。ここだよ、ここ」
王子は自分を指差して男に声をかけた。
「おっと。これは失礼」
男は軽い身のこなしで石垣を飛び越えて来た。
「すっ…げぇ傷ついた。俺がチビだってことを、そんなに馬鹿にしたいのか?」
「滅相もない」
王子…ギルドは、十七歳の成長期の真っ只中。
だが…その背丈は、絶望的である。
「…それで?」
「魔法訓練の時間ですよ」
「もう、そんな時間か。じゃあ行こうか」
ギルドは男の前に立って歩き出した。
男…バシュリッツ国の近衛騎士に自ら志願した、名をディルス=オードスタン。
真面目な騎士だが、ひょうきんな性格でギルドを精神面でも支えてくれる、優秀な側近だ。
その整った容姿故に、女性に人気がある。
また、彼の方も、泣いている女性がいるとすぐに駆け寄って行く。
「女に節操ないけど…ディルスって強いんだよなぁ…」
「何か言いましたか?」
「別に」
ギルドは知的なだけでなく魔法に関しても人並み以上に精通している為、ディルスの潜在魔力に気づいていた。
彼が本気を出したら…城の四分の一は焼け野原になるだろう。
また、ディルスは近衛騎士を志願したというだけあり、剣の腕も確かで全く隙がない。
バシュリッツ国最強の騎士だ。
更に知識が豊富で、王子とウマが合うだろうと国王も彼の申し出を受け、王子の側近に置いた。
「今日は国王の命令もあり、実戦訓練とします」
「実戦?手加減しろよ…?」
「はいはい」
二人は不思議な空間の部屋に入った。
この部屋で魔法を使っても威力は半減する。
それを逆らって魔法を使い、魔力を鍛えるという部屋だ。
ギルドは少し離れて立ち、ディルスを見据えて構えた。