聖者と覇者
□プロローグ(全1ページ)
1ページ/1ページ
約300年もの昔…。
闇に支配される時代があった。
草木は枯れ、動物は死に絶え…あらゆる水が毒と化した。
バルロス現象…。
世界を守りし創世神の試練だと言われていたが…人間は死滅寸前であった。
しかし…。
ある時、突如として少女が現れた。
透き通るような白い肌…桃の実の色の長い髪は滝のよう。
とても、人間のようには見えなかった。
人間は皆、一枚のボロ布で人前では見せられない箇所をかろうじて隠している。
そんな中、少女のいでたちは本当に…有り得ない。
少女はその辺に溜っていた泥水を飲んだ。
だが、平然としていた。
人間は恐ろしくて手を出せない毒水を飲んで…顔色ひとつ変えない。
「これは創世神の試練などではありません」
少女は周りの死にかけていた人間を見渡しながら言った。
「全ては“魔”という闇の者の仕業。魔は人間達の死に様を見て栄華にする卑劣な存在なのです」
それを聞いていた一人の男性が躊躇なく立ち上がり、少女の目の前に立った。
野生児のようないでたち…。
髪は伸ばしっぱなしで全身からは異臭が放たれていたが…瞳の綺麗な青年だった。
青年は衰弱しているとも思えないような口調で、こう言った。
「魔を倒そう」
魔の居場所が分かるという少女は青年と旅に出た。
魔の元へ赴く際に各地を旅した二人は、現地にて人々の心を癒し…その甲斐あって世界は芽ぶいた。
少女が毒水に満たされた湖に裸身を泳がせると…湖は瞬時にして透明の…清潔な水になった。
それから少女を「聖女」と人々は呼ぶようになり、また共に旅に出た功績によって青年は「勇者」として崇められ、尊敬された。
各地を旅して…やがて二人は年老い…小さいながらも王国を立ち上げた。
バシュリッツを勇者が統治し、フォルスタンを聖女が統治し…二国の友好関係は現代まで継続して成り立っている。
…約300年後。
魔を倒すという意志は二人の子孫達が引き継ぐのであったが…。