精霊伝説

□災いを招く者(全14ページ)
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カナの寝顔は、苦痛に歪むことなく穏やかな寝顔だった。


「神よ。この者のみたまを、今…ここへ誘いたまえ」


レンディの癒しの魔法でも、カナは目を覚まさない。


何度も試し、レンディは首を振った。


「…そんな…こと…って…」


ヘレンダはカナの頬に触れた。


「…散々、痛めつけられたみたいだね。生きていたのが奇跡さ…」


「…ヘレンダ、ここを離れないで。私達は村の様子を見て来るから…」


アーデ達がその場を離れると、ヘレンダはうつ向き…泣いた。


母親が病気で死んだ時も…。


結局、何もしてやれなかった。


「…早く、大人に…なり…たい…」


涙は枯れることを知らなかった。


何もする気になれない。


気が付いた時には、黒い雨が降っていた。


「…ヘレンダ。お別れは済んだかい?」


アーデが歩いて来た。


ヘレンダは黙って頷いた。


「…さあ、行こう。新大陸へ…」


アーデに肩を支えられ、見上げた。


「新大陸…?」


「ああ。港町クリューゲから船に乗るんだよ」


アーデはヘレンダの頭を抱き寄せ、溜め息つく。


「…アーデさん…?」


「…君は、世間を知るには…まだ幼過ぎる。やるせないよ…」


村の入り口まで行くと、ヘレンとレンディが村の人々に冷徹な言葉を浴びせられていた。


「この…疫病神が!!!」


「あんたが、さっさと邪精霊ガイターに降伏しないから、こうなったんだよ!!!」


「そもそも、エレナが来た時から村はこうなる運命だったんだ!!」


ヘレンダは愕然となる。


あの優しかった村の人々が…。


ヘレンの帰りを待っていた村の人々が…。


アーデは杖で道を開け、レンディにヘレンダを託した。


「…ヘレン、どうして何も言わないんですか」


「…事実だからな。仕方ないよ」


ヘレンは村長に頭を下げた。


「…すまなかった」


すると、小さな子供が石を投げた。


ヘレンのこめかみに当たり、血が流れた。


「出てけ!!!」


「何が三英雄だ!疫病神!!」


「三英雄に関わるとロクなことがないとは、よう言うたもんじゃ」


「ナノレイク村も悲惨だったろうね。こんな奴のせいで…」


アーデが怒りに何かを言おうとしたが、ヘレンが止めた。


一行はアルタ村を背に、歩き出した。
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