天馬の騎士
□婚約(全16ページ)
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司教は不適に笑い、少女に近付く。
「い…いやあ!!!」
「…ッ!!」
少女が人質に取られ、レルフが駆け寄ろうとするが…司教は短剣を、少女の喉元に突き付けた。
「動くな。少しでも妙な真似をしてみろ。こやつの首を掻き切ってやるわ」
司教が後ろへ下がると、神官達が司教の周りを取り囲み、剣を抜いた。
その時。
国王の首元で、弦が切れる音がした。
そして…神官の一人が倒れた。
「遅過ぎるぞ」
国王が言うと…神官の一人が、まとっていた布を脱いだ。
「申し訳ありません…国王陛下…」
神官に変装していた、イージルだった。
「まさか、人質を取られるとは思いもしなかったので…」
「全く…。私が死んだら、どうしてくれるんだ」
国王はイージルを叱る。
「いつの間に…?!!」
司教は蒼白になる。
「我が国の騎士を過小評価し過ぎたようだな」
イージルが言うと…司教と、その周りを取り囲んでいた神官達が倒れた。
「キャアアアア!!!」
「うわああああ!!!」
「人が死んだ!!!」
来客達が騒ぐ中。
レルフは振り返る。
すぐ隣に、トーナが立っていた…。
「トーナ…」
「みね打ち…ですよ。ご安心を♪」
トーナは鎧を着ているにも関わらず、軽い身のこなしで国王の前で、イージルと共にひざまずいた。
「すいませんでした…」
「処罰は何なりと…」
大参事には至らなかったが、国王は負傷したのだ。
厳罰は大きい…。
「………」
国王はイージルの頬に平手打ちを放ち、トーナの頬を殴った。
「自惚れるな!!いくら強くても、自惚れた結果がこれだ!!油断するなと、いつも言ってるだろう!!」
「面目ない…」
「修行不足でした…」
トーナとイージルが謁見の間を出ると、来客の一人が抗議した。
「ヴァサーラ。いくら何でも…」
だが、レルフが来客の袖を引いた。
「陛下は、本当に失望した相手には決してお叱りしない。その方が効率が良いし、実際に処罰を受けなかった者は国を出て、帰って来ない」
「何故だ?!」
「お叱りしないという事は、相手にもされない。気まずくなって陛下が統治する国には居場所がない。まあ…国を出た者なんて数えるくらいの悪人ばかりですが」
来客は頷き…国王の首を、杖を振るって魔法で治療してやった。
「助かった」
聞けば、その来客は…国王の母親の弟の息子だったらしい。