聖者と覇者

□聖者と覇者(全4ページ)
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城の一室。


王子ギルドの寝室だった部屋だ。


「ギルド様。お食事の時間ですよ」


男は部屋に入るなり、寝台に腰掛けた。


「…起きる訳がないか…」


男は、寝台で眠っている青年の髪を撫でる。


「あなた…このままでは、栄養失調で死んでしまいますよ?」


しかし…青年は目を覚まさない。


「…ギルド様…」


男は青年…ギルドの髪を撫でた。


男が青年ギルドを抱いて、バシュリッツ国へ来たのは…二年前。


「バルラに発見され…ここまで……私がお連れしたんですよ…?」


今までに何十人という医者や司祭に診察させたが、原因不明だった。


ギルドはずっと眠っている。


「…ギルド様…。私の居場所は…あなたの側にしかないというのに…」


男は泣いた。


そして…祈る。


「…女神イリア。奇跡を…奇跡を起こしてくれ…」


…ピクッ。


ギルドの睫毛が動いた。


「ギルド様!!!」


男は…絶句した。


開いたギルドの目は…。

白く濁っていたのだ。


ギルドは手をまさぐり、起き上がる。


「…ギルド様…」


男が呼ぶが…ギルドは辺りを見回している。


「…ギルド様。私が分かりますか?」


「…ぅ…ぅぁ…ぅ…」


ギルドは…赤子のように、唾液を垂らして唸るばかり。


「ディルスですよ…。ギルド様…」


男…ディルスが肩に手を乗せると。


ギルドは目を見開いて、その手を乱暴に振り払う。


そして、髪を掻きむしって頭を振った。


「ギルド様!!!」


ディルスはギルドを抱き締めた。


ギルドはなおも暴れたが…ディルスの首筋を嗅いで、抵抗するのをやめた。


「あ…ええ。愛用の香水は変えられません」


ギルドは恐る恐るディルスの顔を撫でた。


そして、額をくっつける。


『…ディルス。俺は目が見えない。加えて、耳が聴こえない』


魔力を通じて、ギルドは話した。


『今は落ち着いているが…もうすぐ精神崩壊を起こすだろう。気がおかしくなりそうなんだ…』

「ギルド様…」

『俺には、もう…お前の声も聴こえない。お前の顔も見えない。だが…側に居てくれないか。不安に押し潰されそうなんだ…』


ディルスは、ギルドの額に口づけした。

敬愛の証だ。


「私は、あなたを守る。あなたが骨となるまで…ずっと傍にいます」


ディルスは、またギルドをきつく抱き締めた。
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