聖者と覇者

□決戦前夜(全7ページ)
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ギルドとリオールは、禁断の魔法の跡を見つめた。


「これを喰らって、魔の奴…しぶとく生きてやがんのかな」


リオールがそう言った。


「だろうな。けど、かなり弱ってるのかもよ。巣に帰ったに違いない」


ギルドとリオールは顔を見合わせる。


リオールは、少し照れ笑いを浮かべて…手を差し出す。


「まだ言ってなかったな。…ただいま」

「…お帰り、兄上」


握手を交わし、腕を組んだ。


そして…それぞれ騎馬に股がり、セリルは。


「私、まだフェンリルに乗った事がありませんの」

「フェンリルはやめておいた方が…」


ギルドが苦笑する。


しかし、セリルに乗られてもフェンリルは微動だにしない。


「フェンリル。お前が私以外の人間を乗せるなんて珍しいな」

「ヒヒーン!」


ディルスはセリルの後ろに乗って、フェンリルの腹を蹴って歩き出した。


「他のお馬さんよりも、すごく大きいです。何か特別なことをされているのですか?」

「いえね、私がこの通り長身でイケメンなものですから、女性が近付かないように鍛えたんですよ」

「まあ!そうだったのですね!」

「思惑通り、誰もフェンリルには近寄りません。気性も荒いですしね」

「そうなのですか?大人しくて、素敵なお馬さんに見えますけど…」

「まあ…近寄る馬鹿が、ひとりだけいますがね」


ロアを乗せたイレイザが、フェンリルと顔を寄せ合った。

ロアは手綱を握っていない。


「馬だけに馬鹿…か。イレイザ、お前は馬鹿だ。馬鹿と言われても仕方ないぞ」

「ヒン…ヒン……」

「まあ!ロア様、危ないですわよ。ちゃんと手綱を持ちませんと」

「両手が塞がっている時は、足だけで操るんですよ。イレイザ、はいよ!」


ロアに腹を蹴られ、イレイザは駆けて行った。


「まあ…。いつもああやって戦っておられたのですね…」

「セリル様。せっかく目が見えるようになったんです。彼らの姿を、よ〜く目に焼き付けるんです」

「はい!」

「で、ここだけの話。誰が好みなんですか?」

「好み……とは?」

「そうですねぇ…。抱き締めてほしいのは誰ですか?やはり、リオール様なんですかねぇ」

「抱き締めてほしいのは……」


セリルは騎馬に乗って歩く彼らを見つめた。

ひとりひとり見つめると、何故か心臓の動きが違った。


「ディルス様。あの方を見ると、何故か胸がドキドキ鳴るんですけど…これは何でしょうか」

「それはね、恋というものなんですよ。伝承が迷信だとわかっている今、躊躇う必要はありません。向こうも、それをわかっているはずですよ」

「つまりは…?」

「いっぱい抱き締めてもらって、愛されなさい、ということですよ。向こうもセリル様を愛しているのだから、いっぱい抱き締めてもらって愛してくれますよ」

「何だか余計に胸がドキドキしてきました……」

「ほら、ちゃんと前を見て。はいよ!」


ディルスはフェンリルの腹を蹴って、彼らの側を歩いた。
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