聖者と覇者

□思い出(全8ページ)
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翌日。


地下道を抜け、雨が降る森の中を西へ進む。


「…以前来た時よりも…何て言うか……」


御者台にいるギルドが、ディルスに目配せした。


「瘴気が酷い…。しかし、この虚しさは一体…」


紫色の霧に当てられているせいか、異常なまでに切ない気持ちが胸中を満たす。


ポロ…と一筋、ロアが涙を流した。


「…俺…何の為に生きてるんだろ…」

「どうしたんだ?」


異変に気付いたディルスが、ロアの隣に騎馬を付けて肩に手を置く。


しかし、その手は振り払われ…ロアは完全に塞ぎ込んでしまった。


「…うぅ…」

「ギルド様?!」


ディルスは慌てて主君の元へと駆け寄る。


「ギルド様…大丈夫ですか?!」


「…ミラナ…今、ミラナが…」


ギルドは快感ともいえる感覚に酔っていた。


〔疲れたでしょう?もう、いいんですよ…私と共に旅立ちましょ〕


間違いなく、ミラナの声がそう語りかけてくる。


そして…柔らかに抱き寄せられる感触…。


…本物だ…。


「…ギルド様…!」


ディルスはギルドの頬をひっぱたいた。

始めは、ボウ…とまだ酔っているようだったが、すぐに我に返ったように頭を左右に振った。


「俺…何を…?」

「…魔法の類でしょうか…。幸い、私には異常がありませんから時々こうして正気に帰して差し上げます」

「ほ…本気で殴るなよ?!」

「分かってますよ」


こうして、ディルスが時々…ギルドとロアをひっぱたいているおかげで、二人の頬は一日痛みが取れなかった。


「ああ…良く眠りました」


その間…ずっと眠っていたセリルが目を覚ます。


ディルスと同じく影響がなかったリオールは、それらの行いを見て見ぬふりをしていた。


「………」


紫色の霧が随分と晴れても、ロアだけは塞ぎ込んだままだ。


時々、溜め息をついている。


その様子を見たギルドとディルスは顔を見合わせ「ひょっとして…」と囁き合った。
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