聖者と覇者

□思い出(全8ページ)
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ギルドがバルラの傷んだ鱗を剥がしてやっていた。


〔ああ…いい…〕

「バルラは、男?女?」

〔あぁ…いぅ…ん?どうして?〕

「何だか女みたいだからさぁ…」

〔しょうがないじゃないか…だって…ああ、気持ち良い…〕

「…聞く人が勘違いを起こしそうだよな…。まあいいけど」


むしり取ってやった鱗をひとまとめにして、藪に捨てに行く。


戻ると、バルラは既に気持ち良さそうな表情で眠りに堕ちていた。

毛布を着せかけ、自身も寝ようと横になる。


目を閉じて、すぐに開けた感覚にさいなまれた。

隣にはディルスが、向かい側にはセリルとリオールがすやすやと眠っている。


(あんまり眠れていないと思ったけど…結構眠ったんだな…俺…)


くせ毛をバリバリ掻いて、荷馬車を出た。


辺りは暗く、大きな騎馬達の影が時々微動しているだけで、物凄く静かだ。


気ままに、その辺りを歩いてみる。


外の空気が吸いたくなり、祠の入り口へと足を運んだ。


ほのかに明かりが灯っていた。


「…?」


ギルドは、そっ…とそちらを覗いた。


ロアが魔法書を手に、彼方を見つめて佇んでいた。


「…ロア?」


呼ばれ、驚いたように振り返った。


「ギルド様…。どうされたんですか?」

「それは、俺が訊きたい。眠れないのか?」

「ええ…。………」

「…何か悩んでるのか?」

「…いえ、大したことではないので。それよりも…」


ロアはギルドの乱れた衣服を整えてやる。


「休める時に休まなければ…ね」

「…ロア…いや…いい…。もう休もう…」


深い溜め息をつくギルドに、ロアはすまなさそうな顔をして隣立って歩いた。


荷馬車の中に入り、ギルドは倒れ込むようにしてすぐに眠ってしまったようだ。


ロアは、魔法書を傍らに置いて髪を掻きあげ…溜め息をついた。


そして…眠っている一同を見渡す。


よほど疲れているのだろう…。

苦痛な表情で、高い寝息をたてている。


明日の行軍に支障をきたさぬようにと、ロアは身を横たえた。


(……俺は、皆が好きだ。でも……)


今までが今までだけに、なかなか素直になれなかった。


(……俺が頑張らないと。皆を守らないと………)


知らずのうちに、眠りは深いものとなった。
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