聖者と覇者

□思い出(全8ページ)
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元バシュリッツ国王妃を見つけた牢獄へとやって来たディルスは、身の毛がよだつ思いだった。


王妃の遺体は影も形もなく…牢獄の扉は開け放たれている。


「まさか…三ヶ月も生きてはいまい。一体、何処へ…」


ディルスは辺りを見回し、耳を澄ませる。

静寂な空間から、ピチピチと水が地に落ちる音がかすかに聞こえた。


(…地下水脈か?)


音がする方向へ歩くと、地面に穴が空いていた。

水音はそこから聞こえる…。


ディルスは単身、穴へ飛び降りた。


「精霊。我に従え…。加護を…」


浮遊魔法を使い、降下した。


着地したそこには、神秘的な泉が湧いていた。

不思議な鉱石がキラキラとエメラルドに輝いている。


(…ここは…?)


その場所は、神の領域だとさえ思えてしまう。


泉に近付き、手で水をすくって顔の汚れを落とす。


試しに飲んでみた。


甘くて口あたりの良い、清潔な水だ。


(魔の瘴気の影響を受けていないのか…?何故だ…)


〔ディルス、どうかしたの?〕


声に驚き、泉を見渡す。


パタパタと羽音をたてて、バルラが飛んでいる…。


「バルラか…。何をしているんだ?」

〔たまたま、この泉を見つけてね。泳いでたの〕


バルラはボチャン…と泉に落ち、バシャア…と水面から顔を出した。


あっという間に少年の姿になって、泳いでいる。


「そうか…。バルラは聖女の親だから…」

「そういうこと。魔の瘴気に侵されていない水場なんて、この辺りにはもう存在しないんだ」


元々、魔の瘴気に侵されていたであろう泉。

バルラが裸体を泳がせることで、水は清潔になり…。

周りの鉱石の色が水面に映って、神秘的な場所だと思わせたのだ。


ディルスは飲み水を補給した後に、何日も洗い流せなかった返り血と汗を存分に綺麗に落とす。


「ディルス…」


ロアがディルスの裸体を見て、固まった。


「どうした?なかなか気持ち良いぞ」

「…何故だ…。どうして…」


ロアの筋肉質な体とは違い、ディルスの体には無駄な肉が一切、付いていない。


「そんな細い体で…」


自分達を支えているのか…。

そう考えると、胸が痛んだ。


当の本人は今までにないような、優しい眼差しで微笑んだ。
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