聖者と覇者
□追憶(全3ページ)
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翌日。
目が覚めた聖女は、隣にいるリオールに手を触れた。
『…ん』
髪を撫でてやると、彼は身じろいだ。
聖女は顔に触れ、懸命に想像するが…。
『…リオール…。リオール…』
『…聖女…』
リオールも分かっていた。
どうしても、自分を目で見て欲しかった。
だから…。
(…聖女の目を治す方法を探しに…旅に出よう)
こんなことを考えた。
リオールは聖女を抱きしめ、別れを惜しみ…窓から飛び降りた。
その日以来、聖女は心を締め付けられる思いにかられた。
リオールの声はするが…抱きしめてもらえない。
訪れて来て、手の甲に口づけされるが…聖女が手を伸ばすと後退るようだ。
花はいつも持って来てくれる。
夜、一人きりになると…切なくなってしまう。
『どうして…?リオール…。私が嫌いになったの?無理して会いに来てくれていただけなの…?リオール…』
リオールに嫌われたなら…と考えると、窓から身を投げたくなる。
しかし、聖女である自分がいなければ世界は滅亡への道を歩むだろう…。
聖女が発する目には見えない魔力…オーラがある為、バシュリッツ国とフォルスタン国は穏やかな空気に包まれ、恵まれているのだ。
『ああ…駄目。私がしっかりしなきゃ…人々は闇に呑まれ、絶望してしまう…』
聖女は祈った。
「気高き勇敢なる血を引き継ぎし勇者は…リオールだと信じる…。勇者リオール…」
十七歳の誕生日を迎えた、抱きしめてくれなくなったリオールは言った。
『双子の弟がいてさ。ギルドっていうんだ』
『ギルド…?』
『俺よりチビなんだけど、顔は似てるから未だに見分けがつかない奴もいるんだ。酷いだろ?』
以前より、会話をしてくれなくなったリオール。
それだけ言うと「また明日」と窓から飛び降りる。
聖女は落ち込んだが、リオールは忙しいのだろうと割り切ることにしていた。
だが…やはり、心のどこかではチクチクと何かが刺さってしまう。
〜END〜