聖者と覇者

□決戦(全10ページ)
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翌日。


空は薄暗く、紫色の雲が太陽の明かりを遮断してはいたが。


「明らかに魔の瘴気が薄い。叩くなら今だ」


泉の水を飲み、ギルドは言った。


「そうですね」


そう返したディルスだが、顔色は土気色だ。


「ディルス?どうかしたのか?」

「どうもしませんよ」


ディルスは微笑んで、愛馬フェンリルの元へ赴いた。


「イヒヒヒヒンッ!!!」

「おおっと…。随分と張り切っているな」

「……はぁ」


フェンリルの側で、ロアが盛大な溜め息をついた。


「なあ…ディルス」

「ん?」

「……ありがとう」

「お前が私に礼なんて、どういう風の吹き回しだ?(笑)」

「その……色々と……悪かった」


ディルスが驚いていると、その背中に触れられて慌てて身をよじった。

セリルが心配そうに見上げてくる。


「ディルス様のお体は、魔の瘴気に対する抵抗力が特別弱いようですね…」

「つまりは?」

「魔の瘴気による病が進行しています。魔の瘴気がある限り、私の力をもってしても…いつまでもつのか…」

「アハハハ。要は、魔を倒せば皆が今まで通りの暮らしを取り戻せるんです。ねえ?ギルド様、リオール様」


話を聞いていたギルドとリオールは顔を見合わせ、心配そうにディルスを見た。


「ディルス…」

「皆で生きて帰るんだよ。だろ?」

「そうなるよう、努めましょうか」

「私、この世界で暮らしたい。あなた方は私に沢山の素敵なものを頂きました。これからも、そうありたい…」

「必ず叶うさ。皆、思いは同じなんだ」


五人は頷き合い、身支度が終えると古城へ侵入した。

元々は貴族の城だったようだが、もはや見る影もない。

瓦礫で部屋という部屋は塞がれ、荒れ果てている。


「昨夜、私の調べでは階上に異常は見当たりませんでした」


そうディルスが言った。


「じゃあ…地下だな」


城の中は静かだった。

魔物の姿はない。


だが…。


地下への階段を降りた途端、魔物が襲って来た。


「ハアッ!!」

「失せろ!!」


ディルスとギルドが魔法で道を開く。


「イレイザ!!」


ロアが命じると、騎馬イレイザは後ろ足で魔物を蹴り飛ばす。


「輝く天空!天罰を!」


セリルもロアに捕まりながら、杖を掲げて魔法を放った。


「ヘッ!!雑魚が!!」


リオールは聖剣で魔物を斬りつけ、負傷した仲間の傷を癒す。


快進撃は続き、地下三階への階段を降りた時。


「…フゥ…」

「魔物は、もう…いないみたいだな」


ギルドとリオールが、進行方向を確認していると…。


「…グハァッ!!!」


ディルスが大量の吐血をした。


「ディルス様?!!」
「ディルス…!」


ディルスはフェンリルから降りて、胸を押さえて唸った。


「グッ…」

「我慢するな!吐くんだ!!」


ロアが背中を力一杯叩く。

ディルスは吐血を続け…息を荒げる。


「もう……そこまで……?」


ギルドが蒼白になって近付く。

ディルスは…今までないような、優しい笑みを向けてきた。


「大丈夫…大丈夫ですから…」

「ああ…一刻も早く魔を倒さなければ……」


セリルが治癒魔法を使う。

幾分かはマシになったようだ。


「…嫌だ…ディルス…」

「フゥ…やれやれ。さっさと魔を倒さねば、今度こそ危ないですね」


ディルスは血を拭って、再びフェンリルに股がった。


「急ごう。きっと、もうすぐだ」


一行は騎馬の腹を蹴って、先を急ぐ。


地下四階への階段を降りた時…。


ずっと眠っていたバルラが、ディルスの荷から飛び出した。


「バルラ!」

「…そうか…。ここが…魔の巣か」


バルラは竜人に姿を変えて、四翼で頭上を飛んだ。


「バルラ。助力を願えませんか?」


セリルがそう言った。


「仕方ない。では…」


バルラは、巨大な竜に姿を変えた。


「仕方ないとは…。他人事だな」


ディルスはバルラを睨みつける。


「すまないな。性分なんだ」


一行は、地下へ向けて全力疾走した。
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