聖者と覇者

□暗黒の回廊(全6ページ)
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翌日。


相変わらず魔物の姿はない。


リオールの声はもう聞こえないが…。

バルラは少しだけ、リオールの心境が分かったような気がした。


リオールは、自分が聖女の末裔だという事を呪っている。

愛するセリルに近付くのが、恐ろしくなってしまったと話していた。


〔聖女が二人という現実…僕も怖い。何だか不吉なようで…〕


ディルスが乗るフェンリルの頭に腰掛けて、バルラは身震いした。

それを聞いていたセリルも、同じ気持ちだった。


リオールは、自分の心を開いてくれた恩人…愛する人。

しかし今は…ただ、愛するのが恐ろしいと感じていた。


「…聖女が二人いるなら、得したと思いますよ。魔が苦手な者が二人、なんですよ」


ディルスが言うが…セリルはかぶりを振った。


「もはや、魔に私達の魔力の波動は効きません…」


そうなのだ。

そう、魔…本人から聞かされ、思い知らされたのだ。


再び沈黙が訪れ…ギルドはずっと塞ぎ込んでいるロアを横目で見た。


「ロア…。兵書法の最低常識だぞ。心の迷いは死を招く。共に戦う俺達にも、とばっちりがくるんだからな」

「はっ…申し訳ありません…」

「何を悩んでるのかは知らないけど…早く元気になれよ」


ギルドは苦笑した。

ロアは申し訳なさそうに首を掻く。


「おや?あれは…」


ディルスが何かを見つけたようだ。


古い遺跡だろうか…道はそこで途切れていた。


「この中を行くしかないか」


ギルドは御者台から飛び降りて、遺跡の入り口の前に立った。


「荷馬車が入れない…。荷物は置いて行くしかなさそうだ」


それぞれ最低限の荷を騎馬にくくりつけ、荷馬車を引いていた馬二頭を解放して逃がした。




もう、後戻りは出来ない。




馬一頭が通れる道を、ギルドを先頭に松明を灯しながら先を急ぐ。


すると、道が二つに分かれていた。


「何か見つかるかも知れない。戦力を分けよう」


ギルドがそう提案した。


「荷馬車の荷物さえあれば、こんな面倒な事…」

「ディルス…」


ロアがすかさずディルスを睨んだ。


「…それで、誰がどっちの道を行くんだ?」


ディルスとロアが相談して、決まった。


ディルスを先頭に、ギルドとリオールが左の道を。


ロアを先頭に、セリルとバルラが右の道を行く事になった。


各自は合流を信じて、前進した。
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