聖者と覇者
□思い出(全8ページ)
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シズ村を出発して、三日が経った。
次々と襲いかかって来る兵士の数は減ったものの、魔物の数は増え…進むにつれ強力になっていくようだ。
幻の玩具は、絶大な威力を発揮してくれた。
しかし、人間の体力には限界がある。
眠る間もなく、強行突破を続けた体はもはやボロボロ…。
「………ッ」
とうの昔に魔力を使い果たしていたギルドは、我慢ならずデュランの背中から滑り落ちてしまう。
「大丈夫ですか?!」
驚いたディルスが助け起こした。
「魔の瘴気に当てられながらの行軍だ。平気な方がどうかしている…ッ!!」
ロアが襲って来る魔物を、魔剣と聖剣の二刀流で斬り捨てる。
「平気だ…。悪い…」
ギルドは再びデュランに股がった。
「キャアッ!!」
荷馬車の中から、セリルの悲鳴が…。
「しまった!!」
ロアが慌てて荷馬車の中へ身を投げた。
「キャアッ!!」
「ちょっと待っ…ぎゃあああ?!!」
バコ…という鈍い音が響き、ギルドとディルスは顔を見合わせた。
「な…何があったんだ…?」
ギルドが、そっ…と荷馬車の中を覗いた。
「ああ…ごめんなさい、ごめんなさい!!私…目が見えないものですから…ああっ!!」
セリルが気絶してしまったロアを、揺さぶり起こしていた。
その側には、魔物の死骸が転がっている。
どうやらロアを、魔物と間違えて誤って頭部を聖杖で殴ってしまったらしい…。
「潜在魔力を腕力に転換可能な杖…ね。セリル様、放っておきなさい。馬鹿は何をやっても死にはしないんですから」
そう言い、ディルスは笑いながら魔物を排除しているリオールを手伝う。
「セリル。次からは声をかけるようにするから」
「そ…そうね…。ロア様、起きて…ああ、どうしよう…」
焦っているセリルが面白いと、ギルドは笑った。
小一時間後、ロアは目を覚ました。
「石頭で良かった……。並みの人間なら即死だったぞ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
「お〜い、ロア。目ぇ覚めたか〜?」
ディルスが荷馬車の中を覗いた。
「ああ…何とか……」
「しかし…誰よりも早く、セリル様の悲鳴が聞こえたと同時に飛び込むんだものな」
「何が言いたい」
「どんだけセリル様のことが好きなんだって話だ。早く犯せばいいのに」
「いやいや…待ってくれ。お前は酷い誤解をしている」
「ほう?」
「セリル様なくては、我々は魔の元へ辿り着くのも不可能だ。必ずお守りしなければならないんだ」
「やれやれ…。一生童貞のままになって、女が寄り付かなくなっても知らんからな」
「こっちがやれやれだよ…ったく」
セリルは首を傾げるばかりだが…。
やり取りを聞いていたギルドは、必死に笑いを堪えていた。
戦い続けて、四日目の朝…。
睡魔が限界を達した。
雨が降り、戦いどころではないと思っていた時。
例の地下牢に続く道に辿り着いた。
「仕方ない…。中で休もう…」
以前来た時よりも、腐臭はなくなっていた。
朽ち果てた荷馬車を火葬して灰にして、そこで荷馬車や愛馬を休ませた。
セリルは荷馬車の中で眠り…。
その護衛の為に、ロアも荷馬車で眠った。
リオールは、愛馬クロノスに寄り添って眠り…。
ギルドは、デュランに寄り添って眠りについた。
念の為に、ディルスは単独で奥へと偵察へ向かった。