book2

□touch
1ページ/10ページ


人当たりよく生きていくのは難しいことではない。
少なくとも人嫌いされる容姿ではない自覚はあるし、そこそこ女にももてる。
かと言って、男からいけ好かない奴だと嫌われる程でもない。
ちょうどいいところにいると、島左近は自分でも思っていた。

顔だけではない。そこそこの知恵もあれば体力もある。
石田三成の傍に立つには申し分のない才覚だと思う。それくらいの自負がなければ、わざわざ疲れる仕事に就いたりはしないのだ。

だから、人との付き合いに苦しむ人間を見ると、左近はちょっとおかしな気持ちになる。
やれ女とうまくいかない、上司と折り合いが悪いと。
そう言う話をよく聞かされるが、彼らが特に何か答えを欲しているわけではないということも左近は知っている。

なので、目の前で酒を飲みつつ管を巻く孫市への相槌の打ち方も、よく分かっている。

「だーら……俺は、何もさ、軽い気持ちで言ってるわけじゃねーんだよ。」
「なるほど?」
「そらな、女を見れば片っ端から口説いたりとか、すぐ、御前のためなら死ねるだの言うのはよくねえけどな、でも、そんなのあれだよ、ほら、なんての。」
「言葉のあや?」
「てーか……挨拶。」
「挨拶ねえ。」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ