book2

□君のためなら死ねる
1ページ/6ページ

 時空の歪み。この現象は、千数百年後の世でも説明の付くものではないそうだ。月英は島左近の話に耳を傾けつつ、歴史というものの大きさを噛み締めていた。
「……では、島殿の生活なされる世界では、われわれの軍略など児戯に等しいのですね。」
「まあ……」
 広げた軍略書を見つめて、少々悔しそうに言う月英のことを横目で見つつ、左近は言いよどんだ。
「言っちまえばそうですがね。月英さんら先人の功績が無けりゃあ成り立たないってもんですよ。」
「……歴史とは難しいものですね。」
「だけどいい加減なもんですよ。」
「いい加減?」
「幾何やらの数式は形が変わりませんけどね。歴史って言うのは残されたものの作る物語だ。何がしか、残した人間の主観が混じるものですよ。」
「そう……なのでしょうか。」
「こうして、三国の世の人々と実際に会って初めて分かるものがある。」
「たとえば?」
「昔の女性はこんなにも聡かったってことですよ。」
 少し目を上げて笑いを含ませながら左近が言うと、月英が照れて笑う。火縄銃の手入れをしていた孫市は、手を止めてその様子を見ていた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ