続:少年百科

□御曹司少年
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(どうやら、僕は切り捨てられてしまったらしい)

黒髪に黒目の少年は、ゆっくりと部屋を見渡した。

会社の会長である祖母の命で、これから住む事になるらしいビルの一角は余りに薄暗く、今まできらびやかな生活を送って来た少年にとっては珍しくもあった。
さっき通って来た街の雰囲気もたいして変わらない。

しかも、暫く家には帰れないらしかった。
社長である父は忙しく、別れの言葉も言えなかったというのに。

(僕が能無しだからかな)

こんな所に送りこまれては、そう思わざるを得ない。
確かに経営学も帝王学も、自分には合わない気がしていたのだ。

(…弟に跡取りの座をとられてしまうなんて)

少年はその場にしゃがみ込み泣いた。
心は悔しくて悲しくて、壊れてしまいそうだったが、決して声は出さなかった。

「坊、どうした」
その時、声をかける人がいた。
少年が泣いているのに気付くと優しく背中を撫でる。
「大丈夫だ、大丈夫…」
男の言葉に少年は思わずすがりついた。




「会長、宜しいのですか。大事なお孫様をあんな場所に放り出して」
従者の言葉に、会長と呼ばれた年配の女性はほくそ笑んだ。
椅子に座り、足を組む。
「あんな場所?」
「は、はい…活気も無く、どうにも寂れた所かと。それに治安も悪いですし」
「…違う、寂れているからこそ良いのだ」
女性の言った意味がわからず、従者の青年は首をかしげる。
「我がグループは、軍治にも手を伸ばしていてな」
まさか、と青年は目を大きく見開いた。
「あそこは、後にその拠点となるのだ」
「…それは」
「あの場所には兵と成り得る喧嘩慣れした者が多くいる。ならば、取り込んで躾直すまで」
「しかし…お言葉ですが、お孫様にはまだ、元いた住人をまとめるだけの力は…」
「それくらいわかっている。だから、一人グループの者を送った」




少年は知らない、
しがみ付いているこの男こそが、祖母からの使者だと言う事を。

この優しさは、命令に従ったまでの事務的な物だと言う事を――――。


“大人に翻弄される世界で”


END.


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