少年百科

□らっきいぼおい
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俺の知り合いに、異常に運が良い奴がいる。
よく自殺を計る奴だが、成功して死ねた試しが無い。
例えば、俺が奴の家に行った日の事だ。鍵が開いていたから無断で家の中に入っ
た俺は、フロアで首を吊っている奴の姿を見つけた。
あーとうとう死んだか。
そう思った俺は、軽く奴の遺体に黙祷を捧げた。
「やあ、レナ。何祈ってんだい?」
上から声が降って来た。仰天した俺が上を見ると、奴がこちらを見下ろしていた

「なんで死んでないんだ。」
混乱して失礼極まりない事を口走った俺だったが、元々奴とは腐れ縁だったため
、半分以上本心が混ざった結果だろう。
奴はニイイッと口の端を持ち上げた。奴は笑うと目も口も三日月の様になり、さ
ながらあの『殺人者とか頭のイカれた犯人とかが被ってそうな不気味な笑顔の白
仮面』みたいになる。
真っ暗な部屋で、首吊り死体がそんな顔をしててみろ、普通の人間ならまず失神
するだろう。しかし悲しいかな、俺は慣れてしまったのか失神どころかぼんやり
と奴を見上げるだけに収まってしまった。
取り敢えず奴を降ろした後に良く見ると、首にロープを巻いて2階から吹き抜けの
フロアに向かって飛び降りた時に、壁から飛び出した釘に服が引っ掛かり、ロー
プがたるんでいたらしい。
人騒がせにも程がある奴である。
またこんな話がある。
奴は俺に何故か好意を持っているらしく、その事で口論になった。俺は激昂し帰
ろうとしたが奴が、君が帰るなら僕はこのナイフで自分の首を切るよ、などと抜
かした。俺は勿論の事死ぬなら俺に迷惑掛けず勝手に死ねと言い捨てて部屋を出
たのだが、直後に奴は一片の躊躇いも見せずにそのナイフを自分の首筋に当てて
横に勢いよく引いた。

流石に慌てた俺は奴に駆け寄った。しかしそこで俺は違和感に気付いた。―血が
出ていないのだ。奴の首にもかすり傷1つ無い。
奴は不思議な顔をしてナイフを再び引いた。切れない。
ギコギコギコ
奴は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔でナイフの刃をノコギリか何かの様に前後させ
たが前者の結果に変わりなく。
俺は奴の手からナイフをひったくると、その刃を見た。
…黒光りする刃は、明らかにペーパーナイフのそれだった。
俺は奴の目の前にそれを持ち上げると、バキンと両手で折って見せた。
それから俺はその残骸を奴の足元の床に叩き付け、般若面すら平伏す程の形相で
奴を睨み付けると足音荒く退場した。
しかしそれからも奴との腐れ縁は続く。
面白がってロシアンルーレットに手を出し、2回の賭けで奴の両隣が死んだ事があ
った。
ビルの屋上から飛び降りたが、偶然ベランダに出ていた主婦が偶然布団を飛ばし
てしまい、それに巻き込まれて無傷で出て来た事があった。

話を変えよう。
例えば俺の知り合いに、異常に運が悪い奴がいる。

そいつの名をベスと言う。
れっきとした男であるから、名前で判断しないでやって欲しい。
でそのベスだが、彼がまた、例の運の良い奴…オズと言う名だが…オズに幸運全
部吸い取られたのかと訊きたくなる程に運が悪い。
階段の3段目から落ち、何処をどう打ったらそうなるのか肋骨2本折る様な奴だ。
ベスの場合、別に死にたがりでは無いのだが。
街を歩けば、ビルから落ちた植木鉢が頭を直撃するわ転んだ場所に落ちていた火
のついた煙草で額を火傷するわマンホールに足を乗せたら蓋が外れて下水道に落
ちるわといった有様である。
家に居たら居たで、風呂上がりにコードに躓いて転び感電したり、ガスヒーター
が暴発して背中を火傷したり。
何処にいても運が無いのである。
そんな運の悪い奴、ベスと異常に運の良い奴、オズ。
面白いのは、この2人が兄弟だと言う事である。
この2人の極端な運勢が、逆に釣り合って兄弟に生まれたのかもしれない。


…生まれたのかもしれない。
そうノートに書き込んだ少女は、1つため息を吐き、大きく伸びをすると机の電灯
を消し、欠伸を噛み殺しながら布団に潜り込んだ。


少女が布団に潜り込む下りを携帯電話に打ち込んだ少女は、音楽プレイヤーを停
止させると
「オズとベスって関連性皆無だなぁ…。ま、双子じゃあないしいっか。」
と呟いた。



「うあああああああっ!」
文庫本を片手に持ったその少年は、横にいた友達に叫びました。
「なんだよこれっ!小説オチ2段重ねかよ!こんな本が315円!?冒涜だ!ぼったくりだ!
読者を冒涜してるぞ!うああ最初ちょっと面白かったからって真剣に読んだ俺は馬
鹿だっ!」
少年の叫びを聞いていたその友人は、彼の肩に手を回して、優しく言いました。
「叫びたいのは僕の方だよ。所詮君は僕の本を借りただけでしょ?僕は315円出し
てわざわざ買ったんだから。」
静かに話す友人の目は、とてもとても怒っていました。


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