君、甘んずる事勿れ。

□第八話
2ページ/2ページ

【君、甘んずる事勿れ。】

 第八話




男A:うおおおおお・・・!!

有希:・・・ふッ・・っく


一点に集中する。
その一点を間違う、それが敗北。
腕、ではない。筋、ではない。
人間の骨組み、すべての基準、そこにこそ、意味がある。


男A:ッ・・ちくしょう!!なんてバカ力だ・・ッ!

西島:有希の勝ちィィィィィィ!


湧き上がる歓声。
二十人で溢れる教室に、廊下まで連なるギャラリーの数。
その中心のボクシングリングにいるのは、
一人の女の子だった。

いや、もう、なんていうか、男の娘だよ。
その領域だよ。色々な意味で。



有希:・・・36、次。


汗をふく、有希。
学園祭当日。
B組は空前絶後の野次馬の数で、にぎわっていた。
商品の”A組桜30分貸し出し券”ではじめは人が集まったものの、
最終的には”え、この女の子やばくね?ちょ、もう男の娘じゃね?よーし、オラもいっちょやってみっかあ!ギャリック砲!”の勢いである。


そしてその歓声はA組にも、届いていた。

A組前。



女A:きゃあああ・・・・って、何・・?あの声・・

女B:あ、隣でなんか、腕相撲大会やってるらしいよ。

女A:しらけるわあ・・帰ろー



兄塚:よー桜ァ。お前んとこ、どうよ

桜:一応、午前より人は増えてるけどね。
 B組に持ってかれちゃってるね。

兄塚:さめてんなあ。桜、勝ちたくねえのか?

桜:(本当に不思議そうに)ん?僕が負けると思ってるの?

兄:や、っぱり・・なあ・・


桜:先生、そもそも、僕がこの出し物にする、って時点で不思議に思ってらっしゃいますね。


兄:・・・ああ。お前みたいなリアリストきどった奴がやる事じゃねえなあ。それに、非生産的だしな。
大抵、学園祭のお化け屋敷っつうのは、教室一個使って、入る客は十分間に2,3人程度。
回転率も悪いし、人が入りにくいのは見え見えだ。
だが、お前はあえてお化け屋敷。 何を考えている?


桜:先生に教えるほど、僕は先生に許してませんよ。
・・強いて言えば、事実は小説より奇なり。

兄塚:・・・・まさか、おま・・

桜:・・ふふ。僕の勝負は、”明日”なんですよ。



その日、A組のお化け屋敷の内部配置が変わったらしい。
袋小路に置いていた、鏡が撤去され・・。

どこからともなく聞こえる女の子の声と姿。


(おねえちゃん、あーそぼ!)



女A:きゃああああああああああああ!

男A:うわああああああああああああ!



桜:どうぞ。本物をお楽しみください。






26日からは、B組からA組へ人の変動が起こる。
A組の午前中から聞こえる本気の悲鳴は、人々をくすぐった。

がらんとしたB組で、兄塚は
本日23人目の相手を倒し終わった有希に話しかけた。有希はそわそわと腕の辺りをさする。




兄塚:桜の奴・・やりやがったな。ギャラリーがどんどん向こうへ入っていきやがる。

有希:・・23、次。

兄塚:おい。有希、てめえ、休め。

有希:俺が休んだら、終わる。

兄塚:んな事ァ、気にする事ねえんだ。・・・・お前、袖、上げろ。

有希:(驚く) い、嫌だ。 ・・殴るぞ

兄塚:そんな力もでねえだろ。・・・腫れてるんじゃねえのか?

有希:     !



服の上から腕をつかまれ、有希は顔をゆがめた。
兄塚は即刻中止の合図を出し、保健室へ。
有希を連れて行った。

その事は桜の耳にも入り、顔色を変え、B組へと向かった。


桜:ゆーき・・・ゆーきは?



静まり返ったB組に声が響いた。
桜の答えに、西島が答える。



西島:保健室だよ。兄塚がつれて

桜:(遮って)この出し物は、ゆーきだけがやっていたの?

西島:・・・あ、ああ。あいつが、平気だからって


桜:そういう問題じゃない。君らはわかってない。

一人の女の子に、こういう事をさせて、平気な人間の集まりとしか僕には見えない。
・・・・最低だね。



張り詰めた空気に桜は投げ捨てた。
桜は、B組を出て、自信の走れる限り、速く走った。



桜:ゆーき

有希:・・ああ、桜。

兄塚:おー若白髪・・・・若頭登場をばまッ!(教科書アタック

桜:ゆーきっ 大丈夫?

有希:兄ッ・・・!!あ、まあ、平気だ・・兄塚よりはな


どこからともなく投げられた教科書により、兄塚ダウン。
桜は有希のガーゼの包まれている腕をつかむ。


桜:大丈夫じゃあ、ないだろう・・?腫れているじゃないか・・

有希:・・昔殴られた時よりか、悪くない。それより、教室は

桜:ゆーき



諭すような桜の声に、有希は脂汗が流れる。
殺気、ではないが、体がこわばるようだった。
兎に睨まれた猫。



桜:・・・ゆーき

有希:なっ・・なんだ・・?おまえ・・

桜:・・・黙って



有希が”悪寒”に包まれながら、黙って近づく桜の出方を見ていると、
突然に保健室のドアが開く。



西島:桜ーーーッ!お前の言うとおりだッ!俺らあれから考


桜 → 有希     Σ西島



西島:がえ・・・




桜ノシ === 教科書   Σ西島


西島:ご、ごめんなさあああああいいいいいいい!!!本ッ、なんか、もう、すんませ

桜:あはははははははははははははははは

西島:桜ぁあぁぁ!まて、そ、それで殴るのか?!その硬くて、重くて、痛そうな鈍器で?!

桜:(棒読み)ぴぴるぴるぴぴるぴ〜 死んじゃえー

西島:ふおおおおおおお!!!!あれ、ちょ桜くうううんん


有希:・・な、なんなんだ・・



男A:結果のみを言おう。

女A:この勝負、後半お化け屋敷の巻き返しは激しく、

女B:B組の全員で、四天王を決め、四天王に挑戦、という

女A:新たなアイディアも打ち返し、勝ってしまうのだ。

女B:25、26の合計客数は、圧倒的にA組の勝ちであった。


女A:そろそろ帰ろっかー

女B:学園祭、おわっちゃったしねー

男A:お嬢さんたてぃーお茶でも

女A:わあ。冒頭で女の子に負けてた人だー

女B:軽々しくも、私達にナンパだってー

男A:ちくしょおおおおおおおお



西島:有希・・ほんろ、ほめんらあ(ほんと、ごめんな

有希:ああ。西島、お前顔のパーツがおかしいが・・。

桜:わあ、素敵だね。

西島:・・・ラリモ=イフマイ!(1840〜?)(なにもいうまい!

有希:あんな力あるんなら、桜が腕相撲やりゃあよかったな

桜:あはは、僕にはそんな力ないよー   普段は。


西島:  !   ま、まあ、片付けもおわったしよお、今日は帰るぜ!気をつけろよー!

有希:ああ。またな。


桜:ばいばーい    KY

西島:!! ・・うぅ・・じゃ、じゃあなあああ!ちくせう・・




何か、西島、こういうパターンが多いことに今更ながら気がついた。
なんとなく、気まずい帰り道。

しかし、展開は帰り道でいつも始まる。
切り出したのは、有希だった。



有希:・・お前、何か変だぞ。

桜:そうかな。 まあ、何はともあれ、終わったね。学園祭。

有希:そうだな。・・初めての、学園祭が。


桜:・・・・ゆーき。今回の勝負、僕の勝ち、だよね?

有希:ぬ


桜:そうだよね?ね? ゆーき?(超、いい笑顔)

有希:ぬ・・


桜:じゃあ、僕のお願い、一つ聞くんだよ

有希:な、なんだ?



有希が鳥肌を立てる。
桜は、それはそれは、いい笑顔で言った。



桜:今度の日曜、一緒にプールいこっ

兄A:そんなバナナッ

有希:あ、兄さん

兄B:有希ー、お前が学園祭は五時からっていうから

兄C:本当にぴったりに行ってみたら

兄D:五時に終わりだったぞー

有希:・・すまん。ありゃウソだった。

桜:ゆーきのおちゃめさんっ


兄A:おちゃめじゃないよー!桜くーん!

兄B:そうだよー!おちゃめじゃなくてこっちは、

兄C:おつかれ、だよー!

兄D:うまい!座布団三千 三百 三十三枚!


有希:うまかねえよ。



桜:そういうわけで、日曜日プールに行ってきます。

有希:あ、てめっ

兄A:おープールかあー!

兄B:いいよねえ、プールは。

兄C:最近出来た所かな?

兄D:カモノハシウォーターガーデン?

桜:さすがですね。そこです。



兄A:でも、プールに行くんなら有希、気をつけなきゃね。

有希:に、にいさん!

兄B:そそ、なんたって有希は

兄C:有希、他の運動は何だって得意なのに

兄D:カナヅチだもんな〜〜〜〜〜〜

有希:言、・・言うな言うな言うな言うなーーーー!!!


けたけた笑い合う兄’s
によによ笑っている桜
苦笑い、有希


桜:そっかあ、じゃあ僕が、手取り足取り、教えてあげるねっ

有希:や・・やめろ・・やめるんだ!

兄A:悪魔の実の能力者だもんなー有希はー

兄B:ボン・クレーと同じだよなーカマカマの実

桜:プール、もっと楽しみになっちゃったなっ




桜が久しく笑った姿を見て、にこりとしてしまう有希。
よくわからない自分の行動に、心の内で何かが生まれる感覚を覚えた有希だった。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ