君、甘んずる事勿れ。

□第七話
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【君、甘んずる事勿れ】


第七話



学園祭の準備は淡々と進んでいた。
有希と桜はあれから話こそはないものの、
何度もわざとらしい廊下での出会い、幾度も帰り道でばったり出会ったり。

実はそれも桜が有希の様子が気になってした事なのだが。
有希はまったく、気がついていない。




男子A:桜ー、この鏡、何に使うんだー?

桜:ああ、それはね。向こうから来たお客さんを写すんだよ。
薄暗い部屋で、いきなり人影が見えたら・・・怖いでしょ?

男子A:・・さ、さすが、桜・・


桜:うん。ドライアイスはそこに設置するから
場所の確保よろしくね。

女子B:わかった!うふ!

女子A:す、素手で触っちゃだめよ!





西島:なんか・・向こう、すごいな

兄塚:・・比べてうち、すごいな。


西島:有希がリングの上で座ってるだけだもんな

兄塚:お前ら、高校の青春それでいいのか?

西島:むしろ、その余った時間で青春の場を作ってるだろ。・・お、おれとか?

兄塚:ストロベリってんなあ。


桜:ねー、うるさいよ?


西島:うわー、おッ!

兄塚:桜ー、相変わらず神出鬼ぼーッツ!

桜:(ぼそりと)・・なんで、ゆーきじゃなくて、お前らなんだよ・・




自分から勝負を申し込んだくせに、
落ち込んでいる桜をみて、
西島と兄塚は思わず、日頃の恨みを
晴らすべく、にやりとわらった。



兄塚:おやー・・おやおやおやー?

西島:もっしかして、桜くぅん・・

兄塚:有希が恋しいんじゃ・・をばまッ!




辞書を投げつけられる兄塚。

本の持つ、特有の攻撃力を舐めてはいけない。
角、表紙、背表紙、ページ。

全てがキングスライム級だ。
もしくは、ヤムチャ以上ピッコロ並み、だ。

桜は楽しそうに、兄塚に言った。



桜:わあ。これで汚い顔が綺麗になりましたよ。先生。

西島:桜・・ッ、恐ろしい子ッ

桜:さ、気が済んだら帰りなよ。まだ仕事があるんだ。

兄塚:お前なー・・教師をなんをばまッ!

西島:え?!何オバマ?!それ、何回オバマっているかっていう

桜:豚は豚箱に帰ってください。・・西島くん、君もいじめられたいの?

西島:さらば、兄塚。ごきげんよう。


兄塚:ぬおッ!西島おまっ!




逃げ帰る二人を見送り、桜は一息つく。
振り返り、教室の方へ入ろうとした時、
ふと、冷たい風が吹いた。

それは、嫌な肌寒さ。


桜:・・こんにちは。


A組の作業現場に向かい、
一人にこりと笑う。





一週間後、作業準備前、A組教室内。


男子A:まじかよ・・それ・・

女子A:うん・・、なんか実際にうちの教室で見た人いるんだって・・。

女子B:女の子の声とか、勝手に物が動いてたりとか・・。

男子A:うはー・・なんか来てるな〜・・


兄塚:来てるらしいな、駄目教師属性。

女子A:あ、駄目教師。

兄塚:・・・なんか、漫画とか、アニメとかで駄目教師は萌えらしいぞ!

女子B:間違ってもお前はないけどな。

兄塚:兄塚ショック!ショッキングピンク!
・・そ、そんな事言っている場合ではない!A組なんかあったのか?


男子A:いやあ、他のクラスの奴が何人か幽霊を見た、って言ってて・・

兄塚:幽霊かー・・先生も昔、左手に手袋してた。黒い奴。

男子A:・・昔っから、駄目だったんですね。


兄塚:いざとなったら、オレお手製の白衣観音

桜:兄塚退散、太田胃酸ー

兄塚:をばまッ!



ぶぎゅる、 と兄塚の体を180度右へねじり、
そのまま逆立ちさせて、足を天井へ突っ込ませている桜
が、いたり、いなかったり。



桜:僕らがこれから幽霊に化ける、っていうのに、幽霊に驚いていて、どうするんだい?

男子A:それはそうだけど・・

女子B:そうよね!桜君!桜君の言う通りよッ!

女子A:・・まあ、桜君は信じてなさそうだよね・・そういうの



英子の言葉に、一息置いてから、答える桜。


桜:・・・・ふふ。作業、続けようか。

女子A:・・・?

女子B:うぅん!桜くんっ、サイッコー!


兄塚:しかし・・、幽霊なあ。


男子A:あ、兄塚先生・・、あの、先生じゃあ、どーにもならないと思うんですけど・・

兄塚:わ、束の間の先生呼びへの幸福!そして、刹那地獄!

・・その、ど、どうにもならない事ってなんだ・・?


男子A:じ、実は生徒会の人に頼もうかと思ってたんですけど・・・







放課後、作業も終わり、皆が帰ろうかという時に、兄塚は有希、西島を呼んだ。



有希:・・・幽霊、退治・・

西島:アホらしいッ!おい、兄塚ー!お前なあー・・
今、有希と桜が対決してんの知ってるだろー!
それなのに、相手の言いなりになりやがって・・


兄塚:いやあー??俺、実は生徒会の奴ら、
あんまり好きじゃなくてさー

西島:お前の好みで、そんな話承諾すんな!

兄塚:まあ、聞け。お前ら考えてもみろ。
お化けなんてもんはなあー、この世にゃいねえんだよ。

西島:んな、人という字はあー、みたいに言われても。


兄塚:そこで俺らが適当にお化けの正体っぽいのを
暴くっぽく、捕まえるっぽく、すりゃあいいんでねえの。

西島:うわあ。相変わらず、教師のクセに夢も希望もない。

兄塚:そして、元も子も無い。

有希:うまい。

西島:うまかねーよ!

兄塚:えー、そこでだ。
もう、既に親御さんにはお電話をさせていただきましたのでぇー

西島:本人の了承は得ずにッ?!

兄塚:それはもう。今晩、夜の十二時まで、学校で幽霊退治ッ

西島:ふざけんなー!俺の安眠を妨げやがって!


兄塚:というわけで、今から三人で大富豪するぞー

西島:はあ?そんなの誰がするわけ・・

有希:(せっせとトランプを用意する)

西島:いいよなああ!大富豪!俺だーいすき!ちくしょう!



そして夜は更けていく。
A組を見張り、という任務があるにもかかわらず、大富豪は終盤へと向かう。


大富豪だった者が、貧民、平民達の手により、一気にずり落とされる。

狂気の沙汰ほど面白い、そう賭博者たちがこの
ネガティブ・スパイラルに何人もはまっていった。
そして、今宵も勝負の流れに身を任せる者が生まれる・・



西島M:いける・・ッツ!このままこのジョーカーを出して、
場のカードを流し、現段階で3の次に弱いこの4のカードを出せば・・

兄塚:甘いな。

西島:! な、何故ジョーカーを出したのに場のカードが流されない?!

兄塚:お馬鹿な奴め・・ジョーカーは単品だとスペードの3には勝てねえよ
合理性はあくまでお前の世界でのルール

残念ながら、その"ジョーカー"じゃあ俺は縛れない
不合理に身をゆだねてこそ、ギャンブル・・

有希:・・・8切(やぎり)であがりだな。

兄塚:え

西島:ぶあーっはっは!お前だってまけてるじゃんか!

兄塚:ゆ、有希〜〜〜おまええええ・・

有希:ふん。人をはめることばかり考えてきた人間の発想
痩せた考えだな。



その時、A組の方から聞こえる物音。
いち早く西島、兄塚は反応する。


西島:のおおおおお!

兄塚:うおおおおいッ! やめろィ、お前の声で、
決して物音に驚いたわけじゃなく、お前の声驚くじゃねえかァ!

有希:・・・行くぞ。

西島:お、おおおお俺もそう言おうと

兄塚:奇遇だな、俺もじっじじじじz、実はそう言おうとした所だ。

有希:よし、じゃあ行くぞ。


兄塚:どうぞー!!!

西島:どうぞー!!!

有希:いくぞ。(二人をひっぱる



(小声で叫ぶ)

西島:ひぎゃあああああああ!

兄塚:武者震いだからな、これええ!武者ぶるうぃいいいい


A組前までくると、閉めていたはずのA組の扉が開いていた。



(小声スタート)

兄塚:うおおお・・きてるって、これ!来てるってええ!

西島:ポルターガイスト!?ラップ音?

有希:(至って真剣に)ポスターワイルド・・ラップON・・?

兄塚:このお馬鹿ッ!筋肉お馬鹿ッ!



有希:・・・・人影だ。

西島:は

兄塚:い?

(小声終了のお知らせ)


西島:うわあああああああああああああ

兄塚:っでえええええええええええええ

有希:な!?お、お前らッツ?!



大声で逃げる、情けとか、そういうものとか、全く無い男共。
彼らの背を見つめ、ため息をつく有希。
しょうがないな、と教室を改めて見る。

暗い教室にさらに濃い闇を作るような、人影。
おそろしいはずのその影は、有希にとっては、
今では懐かしい、見知った影だった。



有希:・・・さくら・・っ

桜:・・・・ゆーき。


振り返った、その影は、綺麗にその人の形を成した。
自分の口からでた、柔らかな言葉に驚きながらも、体は動かない。
心ばかりが、前へ、前へと、動いていく。

でも、その衝動は、桜の前にいる
別の人影により、意味を変えた。


有希:さ、桜・・・そ、そいつは、誰だ?

みまちゃん:さくらちゃん、これだれ?

有希:こ、これ・・・

桜:あー、このお姉ちゃんはね、僕のお友達。
ゆーき、っていうんだよー

みまちゃん:ゆーき!

有希:こら、仕込むなそこ。 で、誰だその子?!

桜:・・。・・・僕の子っ

有希:本 当 の 事 を 言 え よ な(脅すように

桜:いやあ、つい?ごめんね、この子はね
この間会ったばっかりの、みまちゃん。6歳だっけ?

みまちゃん:うん。ずっと6歳だよっ

有希:ずっと・・、ろく、さい?



まさか、と有希が思うと、
みまちゃんと名乗る女の子は、すう、と目の前から消えてしまう。
はじめ、現れた時と同じように。


桜:大丈夫だよ、みまちゃんはいい子だよ。

有希:桜・・お前、一体何してたんだ、こんな所で・・・あの子と。


ん?と笑う桜。
そんな事が気になるの?とでも言いたげな、挑発的な笑み。


桜:遊んであげてたんだよ。学園祭の準備をしている時に、
みまちゃんが話しかけてきたから、それに応えてあげた。

有希:にしても、妙な話じゃねえか。
何でお前が、その子の相手してんだよ。

桜:ゆーき、ちょっとは考えてよー。
この子、たくさんの人とお話できたら、成仏できる、っていうんだ。

有希:・・・・まさか、その為に毎晩、
一緒に遊んでやってるわけじゃねえんだろ。偽善者。

桜:あはは。ギブアンドテイクな関係でいたいだけだよ。

ね。 おいで、みーまちゃん・・





少しばかり、時間が錯誤する。
有希を置き去りにして、すぐの二人の動向を追おう。


西島:うおおおおおおおおおおおおお

兄塚:はあああああああああああああ


西島:震えるぞ!手足ッ!

兄塚:怖がるほどひ・・・って馬鹿!このお馬鹿ッ!

西島:乗ったくせに!結構乗ったくせに!



兄塚:おい・・西島、今、よく考えたんだが、
この状況・・・・、俺らかなり、酷くね?


2階、階段の踊り場で、ぴたりと止まるMen’s。
息をきらせながらも、その頭の中では至って冷静だった。


西島:んな馬鹿な。

兄塚:だよなー!ちょっとした思い違いだよなー!

西島:ったく、当たり前だろー!有希は殺しても死ぬような奴じゃねーよ!

兄塚:はっはっは!うまい!

西島:はっはっは!



兄塚:でも、職員室の鍵、A組で落としたぽ・・

西島:この駄目教師ーッ!


渋々、兄塚を盾にしながらA組へと戻る二人。
うすら暗い教室。
だが、闇になれた二人の目は
さっきの人影がこの世に存在する魔王、桜のものだと確認すると、一気に安堵した。


西島:んだよ!桜じゃねーか!

兄塚:脅かせやがって・・、さっさと鍵取りに行くとするか。


西島:おーい!さく

桜:ね。 おいで、みーまちゃん・・

兄塚:みま・・?


みまちゃん:はーい!(西・兄の間を浮遊しながら通る)



西島:ぎゃあああああああああああああああああああああ

兄塚:ぬああああああああああああああああああああああ







お手ての皺と皺を合わせて、南無妙法蓮華経





【第七話 終了】

お疲れ様でした!
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