君、甘んずる事勿れ。

□第四話
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【君、甘んずる事勿れ。】

 第四話




有希:だから、しつこいと言っている。


廊下に響く、男らしい声。
新校舎二階、つまり有希達の教室のある廊下。


西島:頼むぜ、有希・・?是非ッ!

有希:あんまり俺を失望させるな。
この間の事でお前の評価は俺の中で
上がったり下がったりだ。

西島:いいだろー、俺を弟子にするぐれえ・・



この間の一件があってからというもの、
西島は有希の弟子になりたいと、
毎日のように頼み込んでいるのだ。




桜:そう、朝、自室から出る前、
昼、友人との昼食中、
夜、規則正しい豪快な寝息を吐くま・・

有希:(遮るように)どっからでてきやがった!腹黒!



桜は唐突に有希の後ろから現れ、
にこにこと笑んでいる。



桜:ゆーきの居る所、桜あり。(笑)

有希:笑ってんじゃねえ!

西島:まあまあまあ・・なあ、有希ーいいだろー?桜もこんなに言ってくれてるんだからよー

有希:こいつはまだなんもいってねーだろ!


桜:ゆーき、フンバ!

有希:ふ、フンバ・・


桜:だって、面白そうじゃない。

有希:てめえ・・今日こそ、すり潰す!

西島:ちょ、有希、それはなんかやめろ!

桜:あっはっはっはっは・・



笑いながらでもさ、と言いなおす。



桜:期間とかきめて、弟子にしたらいいじゃないか。それなら有希もいいだろ?


西島:おおーッ!ナイスアイディア!

有希:き、期間??(弟子ってそういうものか?)

桜:そ。どーせこの脳内筋肉おバカさんの事だから、あと三日後の試合に勝ちたいとか、先輩に良い所見せたいとか、そんな所だろうし。

有希:まさか・・な、・・愚かしい。


西島:!!さ、桜??どうしてそれを??!

有希:そ、そうなのか!!


桜:じゃあ、放課後の2時間。
コツとか教わって、手っ取り早くスキルアップして、
試合に勝って、先輩ゲットすればいいんじゃない?


有希:お前・・今後の展開全部言ったな・・!

西島:いいのか!有希!ぃやっほう!さんきゅ!

有希:な・・・に、西島!


そう言って、小躍りして教室へと
帰って行ってしまった西島。
有希はきり、と桜をにらんだ。


有希:お前な、もうちょっと考えて・・

桜:有希はもうちょっと人と関わった方がいいんだよ。

有希:・・あ?


桜は少しだけ寂しげに笑った。
直後、始業のベルがなり、桜は表情を一転させる。


桜:さ、戻ろう。

有希:・・お、おう。



さて、時は進み、放課後に。
西島をぶっ飛ばしたあの日の夕日を
思い出すような夕日をだった。

校舎裏に、有希と西島、そしてなぜか桜もいた。




有希:何でてめえがいるんだよ!

桜:いやだなあ。僕は発案者なんだよ?いるべきじゃあないか。

西島:そーそ。さっ、有希!どっからでもかかってこいやあああ!


ばしん、ばしん、と両手を叩く西島。
顔は真剣そのものだ。
だが、有希は動かない。

有希:・・・・・

西島:・・・かかってこいやああ!

有希:・・とうッ(右ストレート)

西島:うぼあッ!!

桜:かんかんかーん。ウィナー、有希。

西島:っておいこらちょっとまてえい!




左の頬を押さえながら西島つっこむ。
そのツッコミはさながらファミレスで
お子様プレートについてくる景品目当てで頼んだ所、
店員に社会の底辺にいる人間を見るような目つきで見られて、
どうしようもなくなった54歳賄雁高校理事長の心の叫びだった。




西島:どうした有希・・それでも”六中の四天王”か?!

有希:誰がそんな中二設定だ。

桜:ゆーきって色々な肩書き持ってるねえ。

有希:うるせえ。ブラック・ストマック。

西島:・・なるほど、腹黒か。

桜:しかし、ゆーき。どうしたのさ。いきなり右ストレートなんて。柔道っぽくないよね。

有希:そうだな。柔道じゃないからな。

西島:なんだあ?!オレに怖気づいたかゆうぶへえああ!(右ストレート)何か本当サーセン!

有希:・・教えてやりたいのは山々なんだが。

桜:あっは。よく言うよねえ。いきなり殴っておいて。

有希:・・・・・・オレは、柔道なんてできない。

西島:(一呼吸おいて)     は?


ものすごいアホ面で固まる西島。
大体予想のついていた桜はくすくすと笑っている。
有希は眉をしかめながら、あきらめ顔をしている。


西島:じゃあ、何でそんな喧嘩つえーんだよ!

有希:・・・柔道は、喧嘩の手段じゃないだろ。
兄さんと喧嘩してるうちに覚えただけだ。
悪いことはいわんから、さっさとコーチを変えろ。じゃ。



くるり、と西島に背を向ける有希。
桜は西島を待つように見ていた。
西島はうつむきながら、叫んだ。



西島:待てよ!

有希:・・・・待っても、何も変わんねえぞ。

西島:変わる、いいや、変える。
確かに、柔道は喧嘩の手段じゃねえよ。
でも、よくわかんねえけど、通じる所はあると思うんだ!
オレは、強い奴に、それを教えてもらいたい。それだけだ!

桜:やるねえ。元ヤン純情街道まっしぐら。

西島:だっ、誰が、元ヤン純情街道まっしぐらだっ!



有希は背後で聞こえた言葉に、じっと考えていた。
あの時、自分に何が必要だったのか、そう考えていた。
そして、こいつは何が必要なのか考えていた。
それは多分。

有希は振り返って西島に向かった。
夕日を背にしていた。
西島にはその姿が輝いて見えた。


有希:オレを殴れたら、お前は弟子やめていい。

西島:・・・へ?

桜:つまり、殴れたら、一人前って事だよ。
素直じゃないなあ。

西島:お、おお!そうなのか!

有希:外野は黙ってろ。・・・西島。こい。



腰を低くし、有希の両手がボディーをガードする。
西島は柔かまえをとり、叫び声とともに、有希に突っ込む。



西島:やあああああああ!

有希:・・・ふ・・・(息を吐く)

西島:っ!わあああッ!

有希:もっと前へ掴み掛かって来いよ。

西島:・・っくそ!

西島M:奇妙な感覚だが、有希が遠くにいるような気がする。
この腕が届かないんじゃないかってくらい・・。
もっと、もっと前へ。

西島:うおおおおおおおお!!




有希、再び立ち上がる西島にジャブをかます。
皮膚と皮膚のぶつかり合う、鈍い音が響いた。
その瞬間、カメラのシャッターの音も同時に響いた。
だが、その場にいた有希、桜、西島には聞こえていなかった。
何だか危ない、この音に。





萩沼:ふ・・ふふふ・・!見てしまったぞ!聞いてしまったぞおおお!





それから三日間の激しい特訓は続いた。


西島:ったあ!

有希:脇をしめろ!


特訓時間はもはや2時間ではとどまらず、
一日に最低でも2時間、となっていた。


桜:ふぁいとー

西島:・・・はああああっ!

有希:うらっ(飛び膝蹴りとかしてみる

西島:ぶほおお(顔面に食らってみる


そして説明不足ではあったが、
四日目の尾矢高校との練習試合の日。


有希:・・・試合前に汚ねえかっこじゃしまらねえ。行って来い。


西島:師匠!

有希:誰が師匠だ。お前みたいな弟子・・取った覚えはねえよ。
お前はもう、立派なライバルだ。

西島:!!・・・ゆ、有希〜〜〜!!!!

有希:っだ!気色わりいんだよ!離れろ!

桜:西島君。どうでもいいけど、もう時間じゃないかなあ。

西島:っと、お!やっべ!・・・じゃ、行って来るわ!


右手を頭の上で振って、西島は体育館側へ行った。
残った桜と有希は荷物を手に取る。


桜:お疲れ様。師匠さん。

有希:うっせ。・・・帰っぞ。


と、その時だった。
校舎側から人影が立ちはだかった。


萩沼:と、お前ら、待て待て待てーぇい!


何か、嫌に派手な奴だ。








【第四話 終了】
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