君、甘んずる事勿れ。
□第三話
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君、甘んずる事勿れ。
第三話
柔道部が校庭を走っている。
列の真ん中あたりで、西島は走っている。
その様子を二階の窓から眺めている桜と有希。
桜:今日の放課後、西島君を屋上に呼んだよ。
有希:そうか。
桜:昨日話した事、大丈夫?
有希は、少し唇を噛み締めた後、
口角を少しだけあげ、桜に言い放った。
有希:少しばかり、納得いかねえとこはあるが・・やるっきゃねえだろ?
桜:・・・そうだね。・・そう。
桜が初めて見た有希の笑顔だった。
放課後。
横田がおどおどと、しながら有希の後についていく。
屋上の扉を開くと、綺麗な夕焼けが真っ先に視線を埋めた。
そしてその中に、彼の狼がいた。
横田:西島君・・・・
西島:横田・・おまえ・・
桜:さて。じゃあ、そろったみたいだね。
有希:ああ・・逃がさねえ。
そこで、有希と桜が横田を取り囲んだ。
わけのわかっていない横田は、ひたすらうろたえている。
横田:あ、あの・・桜君、有希さん?
有希:ばっくれてんじゃねえ!
もう・・ばれてんだよ、横田。
そこで、桜が有希を落ち着かせると同時に、
話に取り残された西島と、横田に
説明するように言った。
桜:有希が、西島君と横田君のいじめの現場に
遭遇した日、僕らはちょっと、思い違いをしていた。
西島:い、いじめ?!何だ、そりゃ・・
有希:そうだ。・・西島、お前はあの時、
横田の事をいじめてなんかなかった。
全部、横田の仕組んだ事だった。
横田:・・・・・
横田は黙り、有希をにらんでいた。
その顔は、あのおどおどとした弱い少年のする顔ではなかった。
有希は固唾を呑んでから、続けた。
有希:西島の友達がいた学校・・。
それが横田、お前のいた学校だ。
そして、西島の友達のいじめのターゲットは、
お前だったんだろ?
西島:・・・・横田。
横田:・・だ、だったらどうだっていうのさ!
そうだよ、僕はいじめられっこだった!
そして、今もいじめられっこだ!
そんな事・・今更、
桜:それはどうかな?
横田:ッ
桜:入学して三ヶ月過ぎてるけど、
僕は今まで西島君が誰かをいじめてるとか、パシリをさせてるなんて、聞いた事がなかった。
その話が出てたのは・・、学校、裏サイトだけ。
追い詰めるような鋭い言い方に、横田はう、と詰まった。
西島は何の事だかわからずに、ぼう、と
していると桜が説明した。
桜:学校裏サイトっていうのはね、
ネット上の掲示板、匿名でおしゃべり可能な場所の事だよ。
有希:そこで桜が西島の陰口を叩いている奴を発見したんだが、違和感を感じたんだ。
中学の頃より、丸くなっているお前が、
何故、今更また不良化しているのか。
西島:なんだと!俺は、そんな事してねえよ!
桜:そうだ。”今の”君は悪くないんだけど、昔の君は、悪かった。
だから、こんな事になってしまったんだ。
・・・ねえ。横田君。
横田:・・・・
桜:学校裏サイトに西島君の悪口を書いたり、
西島君に悪い印象を与えるような事をしたのは
有希:全て、お前だ。
横田はうつむきながら、ぶつぶつと何かを言っている。
しばらくしてから、顔を上げた横田の
目には涙がたまって、零れ落ちていた。
そして、横田は悔しそうに声を漏らした。
横田:僕は・・悔しかったんだ!
中学の頃、散々いじめられて、誰にもいえなくて、苦しんだのに、
いじめた方はそんな事も忘れたように、
のうのうと新しい学校生活になじんで・・!
昔、君は君の友達と一緒に僕がいじめられてるのを見て笑っていた。ずっと覚えていた。
だから、この学校で君を見つけた時、思ったんだ。
復讐してやるって!
お前の生活を昔の僕みたいにしてやるって!
だから・・・だから・・
有希:・・・横田、もういい。
横田:お前なんか、皆に非難されて
誰にもかまってもらえなくなれば
有希:・・横田。
横田:それでいいんだ!!
有希:横田あッ!
乾いた音が屋上に響いた。
有希が横田の頬を平手打ちした。
その場に崩れる横田に有希は言う。
有希:西島は中学の頃からどうしようもない奴だとは知っていた。
お前が中学の頃、受けた仕打ちも知った。
だからこそ言うからな。
男らしくしろ。
真正面から謝れと言え。
そうしねえといつまでも前、向けねえぞ。
お前自身が。
横田はハッとしたように、有希を見た。
有希は、黙って、西島の方へ歩み寄った。
何?!とあせる西島。
西島:お、おい有希。
有希:さて、償え。
西島:ちょ、た、タンマ!
有希:お前がしでかしたことだ。責任をとれ。
西島:やめろおお・・って、は?
むんず、と後ろから西島を固定する有希。
手伝う桜。わけのわかっていない西島。
桜:じゃ、そういうわけで、横田君。
横田:は・・はい!
桜:君の、お気に召すままに。
西島:・・ってえええええええええええええ!!
横田:よ、よぉーし!今日のために習ってきた少林寺拳法、ムエタイ、太極拳、剣道、柔道、相撲、どどん波、その他各国の国技を披露する時だ!!
くらえ!!西島!
西島:え、ちょ、ま、何かめっちゃレベルあがってないかああああああああああああ!!!
その日、屋上から
少林寺拳法、ムエタイ、太極拳、剣道、柔道、相撲、どどん波、その他各国の国技を受けた
西島の悲鳴が聞こえたそうだ。
結構めでたしな感じだ。
横田:あのっ、お二人とも、今日は本当にありがとうございました!
桜:いいよーそんな礼金だなんて。ねえ。
有希:おい。黒いぞ。桜。
横田:・・僕、有希さんみたいに・・
有希:ん?なんだ?
横田は俯きながらぼそり、といった。
だが、顔をあげ、笑顔で言った。
横田:いいえ!何でもないです!それじゃあ、お先に失礼します!
有希:おう。気をつけろよ。
桜:また学校でね。
ぼこぼこになった西島を置いて、二人は帰った。
帰り道でそういえば、と桜が話し始めた。
桜:西島君改心の理由。知ってる?
有希:さあ。お前、知ってるのか?
桜:まあね。・・運動部のマネージャー、三年の柚木さんって人なんだけど、不良とか
曲がった事が大嫌いな女の人なんだって。
有希:ぶっつ・・!!
有希は両手を口に押さえながら、盛大に吹いた。
有希:あっはっはっはっはっはっはっはっは!
桜:いやあ。青春だねえ。彼も。
彼女見たさに、三年の教室をみたりとか、さ。
有希:いやあ・・それぐらいのほっ・・が・・
いいんじゃあ・・ははっはっ・・あー!!
西島のやろー、色気づきやがってっ・・くく・・・
桜:・・・まあ、いいんじゃないの。
恋してない誰かさんよりは。
夕焼けの中で、皮肉のように桜はぽつりと言った。
横でまだ笑いが止まっていない、男より男らしい彼女の、二度目の笑顔を見守りながら。
【第三話 西島と横田編 終了!】
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